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経営随想

秋田の暑い夏、そして最賃改定、働き方改革

佐藤 俊彦
(厚生労働省 秋田労働局長)
 夏の高校野球は不思議なもの。春の選抜とは、また違った風情がある。各地の県予選が始まった頃から、新聞を眺めては、わが母校の動向をチェックしながら一喜一憂し、郷愁が漂いはじめる。また、代表校が決まって甲子園大会が始まってからは、自分の出身地(山形)、いまの地元秋田、かつての赴任地(福島、滋賀、宮崎)を応援し、最終的には、東北全体を応援するなど、季節柄お盆の時期などと相まって、各地の代表校に対して、それぞれの想いを寄せ、妙に地域性が色濃く反映する大会である。
 例年、そんな気持ちで盛り上がる全国高校野球大会甲子園。今年の秋田の夏は、限りなく、暑く(熱く)盛り上がった夏になった。見事準優勝に輝いた金足農業高校で湧いた秋田の暑い夏。盛り上がったのは、秋田ばかりではなく、全国津々浦々まで。幅広く喝采を浴びた理由は、県立高校、農業高校というばかりでなく、あの見事なまでの清廉潔白さ、校歌にこめられた愛、高校生らしい立ち居振る舞い、大敵に立ち向かう武骨さなど、様々な要素が織り交じりながら、現在の日本人すべてが求めていたものが、金足農業の戦う姿に凝縮されていたのではないかと思う。
 ところで、その秋田の暑い夏。実は、労働関係では、金足農業の快進撃より一足早く始まっていた。毎年、最低賃金改定を審議する地方最低賃金審議会に対して、労働局長より審議会会長へ諮問したのは、8月1日。目安額として、中央最低賃金審議会より提示されたのは、秋田県の場合、Dランクの23円。(ちなみに、Aランク27円、Bランク26円、Cランク25円である)
 例年であればDランクに位置する各県は、それぞれ他県の動向を見極め、様々な事情を配慮しつつ、公労使とも慎重なスタンスで判断、議論し、答申を出してきたのが一般的な流れである。
 それが今年の秋田は違った。諮問した翌日の2日には、目安額23円に1円を上積みした24円、公労使全会一致で合意したのである。また、答申文には付帯決議として「中小企業・小規模事業者の生産性向上のための継続的支援」や「秋田県の人口減少による地域経済縮小の懸念に対し、経済の維持拡大と県民生活の安定を目指す」という労使それぞれの立場を超えた熱いメッセージが添えられた内容となった。
 今年の最低賃金改定の動き(今後、異議申し立て等があるので最終結論ではないが)には、大きな特徴がある。A、Bランクは、目安額通りの決定、Cランクは一部上積みはあるもののほぼ目安額、Dランクは各県とも軒並み目安額に上積みし、上位ランクとのかい離を少しでも縮小し、地域経済活性化のための動きをみせたところにある。この流れを作ったのは、最低賃金を巡る関係者の間では、2日に答申を出した秋田が大きな流れを作ったのではないかという話だ。地域最賃の額については、それぞれの地域で決定されるところであるので、その是非について言及する立場でないものの、例年以上に、暑い(熱い)夏を彩り、その流れを作ったのは、まぎれもなく秋田であり、関係者各位には、感謝申し上げる次第である。
 ところで、話は甲子園に戻る。大会開催前には、高校球児の将来を慮って、球数制限の導入や熱中症対策、特待生問題、指導者のあり方、甲子園以外の場所での開催あるいはナイター開催など、様々な視点から議論がなされていた。それが、あの金足農業の勇敢な戦いぶりで、全てが一掃され、高校野球とはこれだ!甲子園はこれに尽きる!というところにまで「高校野球としての美学」をあらためて想起させてくれた。原点に立ち返り、様々な問題点を議論できる、リセットした環境を作ったことも、金足農業の大きな成果なのではないかと思う。
 さて、高校野球と似たような議論が労働関係ではなかったか。そう、6月末に国会で法案が通過した「働き方改革関連法」である。「働き方改革関連法」に関連する法律は、労働基準法、労働安全衛生法、労働時間等設定改善法、パートタイム労働法等であり、この法律の核となるのは「長時間労働の是正」「休暇の確実な取得と健康確保対策」「同一労働同一賃金(不合理な待遇格差等の禁止)」の3本柱である。少子高齢化が進展し、ますます労働力人口が減少していくなかで、生産性の向上を図っていくためには、これまでの経営者、労働者のあり方を根本的に見直し、しっかりと雇用管理を行いつつ、働きやすい職場環境を構築し、よりよい人材を活用しながら、今後の日本社会を活性化させていこうという趣旨である。
 これまで長年培ってきた伝統的な手法、やや昭和的な働き方をあらためていくという考え方には、様々な場所で講演をさせてもらってきた感触としては、経営者の皆様は、総論は賛成であるが、いざ自社内で展開していくには、相当な障壁があり、この風土や文化に馴染んでいくためには、やや時間がかかるのではというご意見も頂戴しているところである。まさに、甲子園における高校野球の議論と一緒である。労働時間(球数制限)、健康確保、公正待遇(県立、私立校格差)など。
 ここで、秋田県の状況を。年間総労働時間は、1,813.2時間(短いほうから全国第38位)。年間所定外労働時間は、98.4時間(短いほうから全国第2位)。一番労働時間の短い奈良県(1,614時間)とは、総実労働時間で198.2時間もの差が生じている(資料出所「毎月勤労統計調査地方調査」)。
 また、年次有給休暇の平均付与日数は、17.2日、平均取得日数は8.1日という状況である(資料出所「平成29年度労働条件等実態調査」)。データからみた秋田県の場合は、残業時間は長くはないものの、年間あたりの総実労働時間が長く、なかなか年次有給休暇が取得出来ない環境であることがわかる。
 働き方改革とは、「労働者が多様な働き方を選択できる社会の実現」ということを目的としているが、これまでの議論の過程や言葉の響き等から、どこか都会や大企業中心の話であって、地方都市である秋田や、中小・小規模事業者などでは関係ないような誤解を生じさせてしまっているのではないかと危惧しているところであるが、今後ますます人手不足感が増していくなかでは、避けては通れない課題である。
 最後に、労働局としては、法律の趣旨や意義を理解してもらうために、今後県内各地において「事業主セミナー」を開催するとともに、事業主団体の皆様や会員企業の皆様には、県内どこにでも説明にお伺いするとともに、様々な疑問点や相談に対しても丁寧に対応していく予定である、何かお困りごとがあれば、最寄の監督署やハローワークにお問い合わせいただければ幸いである。
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