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廃校を活用した地域活性化の取組み

 近年、少子化に伴う児童生徒数の減少や市町村合併などにより全国で学校統廃合が相次ぎ、廃校となる学校が増加している。文部科学省の調査によると毎年約500校前後の学校が廃校しており、廃校施設の有効活用が課題となっている。このため同省では、平成22年9月に「~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト」を立ち上げ、未活用の廃校施設の情報提供支援などにより、廃校の利用促進に取り組んでいる。廃校施設は企業のオフィスや工場、福祉施設、文化施設などに活用され、雇用の促進や交流人口の増加など地域の活性化に繋がる事例もみられる。本稿では、廃校施設の動向や県内における廃校を活用した地域活性化の取組みについてまとめてみた。

1 児童生徒数の減少が続く

 我が国の小学校から高等学校までの児童生徒数は、昭和25年度に1,846万人であったが、30年度には2,000万人台まで増加した。40年代前半は減少したが、後半から再び増加に転じ、60年度にピークとなる2,226万人まで達した。その後は一度も前年度を上回ることなく、平成29年度は1,306万人とピークに比べて約40%減少した。
 各学校段階別に児童生徒数の推移をみると、小学校の児童数は昭和20年代末から30年代前半にかけて急激に増加し33年度に1,349万人、中学校の生徒数は30年代後半に急増し37年度に733万人と、それぞれ戦後最大のピークを示している。この変化は22年から24年にかけての第1次ベビーブームといわれる出生数の急激な増加によるものである。その後は第2次ベビーブームなどにより高等学校の生徒数が平成元年度に564万人とピークに達したが、29年度は小学校が645万人、中学校が333万人、高等学校が328万人とそれぞれ減少傾向が続いており、今後も児童生徒数の減少が続く見通しにある。

2 廃校施設の動向

(1)廃校施設の発生状況
 少子化に伴う児童生徒数の減少が続く中、学校の廃校も増加している。文部科学省が実施した「廃校施設活用状況実態調査」の結果によると、平成14年度から27年度までの14年間で6,811校が廃校となった。「平成の大合併」と呼ばれる市町村合併が最も盛んであった16年度に一時ピークを迎えたが、その後も増加基調が続き、24年度にはピークを更新、近年は毎年約500校前後が廃校となっている。27年度の内訳をみると、小学校368校、中学校107校、高等学校等45校が廃校となり、小学校の廃校化が大きく、低年齢層の少子化が特に著しいことが表れている。
 少子化に伴う児童生徒数の減少や市町村合併等を理由に廃校施設が増加しているが、こうした状況を踏まえて、文部科学省は27年1月に教育委員会が小中学校の統廃合を検討する際の指針を示し、「公立小学校・中学校の適正規模・適正配置等に関する手引」を策定した。今後も全国で学校統廃合が進む可能性があり、廃校施設の有効活用が課題となっている。

(2)廃校施設の活用状況
 廃校施設の活用状況については、施設が現存している廃校数のうち、「活用されているもの」は4,198校(70.6%)ある一方、「活用されていないもの」は1,745校(29.4%)にも及ぶ。さらに、現在活用されていない施設のうち、今後の活用が決まっているものは314校(5.3%)にとどまり、1,260校(21.2%)では活用用途が未定の状態である。

(3)廃校施設の活用用途
 一方、現在活用されている廃校施設の活用用途については、「学校(大学を除く)」が33.9%、「社会体育施設」が21.4%、「社会教育施設・文化施設」が14.2%となり、この上位3つで全体の約7割を占める。次いで「福祉施設・医療施設等」(8.9%)、「企業等の施設・創業支援施設」(7.8%)、「庁舎等」(5.6%)、「体験交流施設等」(5.0%)などとなっている。
 学校施設を用いた活用であるため、教育関係用途の活用が大半を占め、民間事業者などによる民間用途の活用が少ない。施設の老朽化や立地条件、用途に応じた法令上の制約など他への転用が難しい側面もあると考えられる。

3 廃校活用のための情報提供支援

 現在活用されていない廃校施設の利用促進を図るため、文部科学省は平成22年9月に「~未来につなごう~『みんなの廃校』プロジェクト」を立ち上げた。「廃校施設の活用方法を検討しているが、活用先が見つからない」という自治体と、「廃校施設を活用して事業をしたいが、活用できる廃校施設が見つからない」という活用希望者とのマッチングを目指し、活用用途を募集している廃校施設の一覧を同省のホームページに掲載している。
 一覧には、各学校の「所在地」、「用途地域」、「土地面積」、「校舎・体育館の構造、竣工年、建築面積、延べ床面積、階数」、「募集内容」、「貸与・譲渡条件等」などが掲載され、平成30年7月13日現在、269校が登録されている。
 また、同ホームページには、廃校活用を検討する際に参考となる活用事例リンク集が掲載されており、平成29年6月現在、155事例が分野ごとに掲載されている。内訳は「オフィス・工場など」22事例、「児童・高齢者などのための福祉施設」14事例、「アート・創造拠点などの文化施設」20事例、「体験学習施設・宿泊施設」63事例、「大学・専門学校などの教育施設」33事例、「特産品販売・加工施設など」3事例となっている。
 この他、廃校施設を活用する際に利用可能な補助金制度についても掲載されており、廃校等の地域資源を活用して農山漁村における所得の向上や雇用の増大等に取り組む事業には農林水産省の「農山漁村振興交付金」が利用できるほか、地域スポーツ施設を設置する場合には文部科学省の「地域スポーツ施設整備助成」、児童福祉施設や障害者施設等の設置には厚生労働省の各種助成が利用できるなど、活用目的に応じた補助金制度が用意されている。

4 県内の廃校施設の動向

(1)廃校施設の発生状況
 平成15年度以降の県内における公立学校の減少数は、20年度に最多の20校となっている。この年は大仙市、能代市、大館市などで学校統廃合が進み、学校数の減少が目立っている。その後もほぼ二桁の減少数で推移し、本県も小学校の廃校化が著しい状況にある。

(2)市町村別の状況
 県内の市町村合併が始まった15年度を基準として公立学校の減少数をみると、29年度までに133校となっている。市町村別では横手市が最も多く14校、男鹿市、湯沢市、由利本荘市、大仙市でも二桁の減少数となっている。特に横手市、由利本荘市、大仙市では、県内で最も大きな市町村合併(旧市町村数が各市8)が行われたこともあり、学校の統廃合が進んでいる状況が窺える。

(3)廃校施設の活用用途
 平成15年度以降に廃校となった学校の活用用途について、公表されている資料やインターネット等の情報をもとに当研究所が集計したところ、県内では49校が活用されている。本県においては美術館や資料館、交流センターなどの「社会教育施設・文化施設」(36.0%)に最も多く活用され、次いで「企業等の施設・創業支援施設」(30.0%)、「備蓄倉庫」(10.0%)、「体験交流施設等」(8.0%)、「福祉施設・医療施設等」(8.0%)などとなっている。
本県は全国に比べ「企業等の施設・創業支援施設」に活用されているケースが多くみられ、民間事業者により農産物の生産・加工工場、食料品製造工場、機械製品の製造・組立工場などに活用されているほか、五城目町の旧馬場目小学校は「BABAMEベース」として、起業やコミュニティ活動を実施する事業者を支援する施設として活用している。

5 本県の廃校施設活用事例

 県内でも廃校施設が様々な用途に活用されているが、本項では県内で廃校を活用した地域活性化事例について紹介する。

(1)羽後町 農林業体験交流施設「沢の子の杜 わか杉」(旧飯沢小学校 閉校:平成17年3月 活用開始:平成19年6月)
 羽後町では、平成17年3月に廃校となった旧飯沢小学校を改築・整備し、町が進めるグリーンツーリズム活動の重要な拠点施設の一つとして活用している。施設では、地域の運営委員会が主体となって地元食材を使った食事の提供や、田植え、川遊び等、周辺の自然環境など地域資源を活かした体験プログラムを用意しており、子供から大人まで幅広い年齢層で利用できる。
 施設内には宿泊室、食堂、浴室などが整備されており、最大36名の宿泊が可能である。町では毎年8月に「西馬音内盆踊り」が開催され、全国から約10万人の観光客が訪れるが、元々町に宿泊施設が少なく、地域住民からも廃校施設を宿泊施設として活用できないかという声が挙がっていた。現在は県内外からの農業体験ツアーを受け入れているほか、バスケットボールやグラウンドホッケーなどのスポーツ合宿、各種研修などにも活用され、年間約600人前後の利用があり、地域内外の方々が交流する場となっている。この他、集会所や避難場所、地域の各種行事にも活用している。



(2)NPO法人由利本荘木育推進協会 「鳥海山木のおもちゃ美術館」(旧鮎川小学校 閉校:平成16年3月 活用開始:平成30年7月)
 平成16年3月に廃校となった旧鮎川小学校は、昭和29年に旧鮎川中学校として新設され、明治末期から大正期の建築様式を引き継いだ昭和20年代の数少ない木造校舎で、平成24年2月には国の登録有形文化財に指定されている。
 由利本荘市では、この校舎を整備し、地元産の木を使ったおもちゃや大型遊具などで遊べる多世代交流拠点として活用している。施設は「東京おもちゃ美術館」の全面監修のもと、東京都、沖縄県、山口県に続き全国4番目の「姉妹館」として今年7月にオープンした。
 施設内には、2歳までの乳幼児と保護者が利用できる「ハイハイひろば」、東京おもちゃ美術館が毎年認定する「グッド・トイ」に実際に触れて遊べる「グッド・トイサロン」、身近にある素材を使って「手作りおもちゃ」が作れる「おもちゃファクトリー」などが教室を改修して配置されている。体育館には高さ5.33メートルの「ちょうかいタワー」や「ツリーハウス」も設置されており、子どもたちが木と触れ合い、一日中楽しめる空間となっている。
 また、昭和初期に由利地域で実際に使われていた生活用品や農具などを集めた「展示室」、電動のこぎりなどを揃え本格的な木工製作を体験できる「木工室」、地元食材を使った軽食などを提供する「カフェ」もあり、子どもたちだけでなく大人も利用することができる。空き教室を活用した「クラスルーム」では、大人を対象に小学校の授業が体験できる特別講座「大人の登校日」も年3回開催している。
 施設で販売されている木のおもちゃ「おむすびころりん」は、今年5月に今年度の「グッド・トイ」に選ばれ、国内外63点のうち、県内唯一の受賞となった。6月からは市の誕生祝い品として、市内の新生児に贈られている。
 今後は市オリジナルの木製玩具の開発を行い、市内の林業関係者や子育て支援団体の新たな活動の場となることを目指している。なお、市では今年度の来館者数は2万5千人、来年度以降は年間3万5千人を目標としている。

(3)東光鉄工株式会社UAV事業部 (旧雪沢小学校 閉校:平成26年3月 活用開始:平成29年5月)
 東光鉄工株式会社UAV事業部は、平成26年3月に廃校となった旧雪沢小学校を大館市から借り受け、産業用ドローンの研究開発を中心に、製造・販売、操縦技能講習、免許取得教習などを行う総合拠点として活用している。東光鉄工は、大型構造物の建築鉄骨や自社製品TOKOドーム、産業機械の設計製作などを手掛けているが、27年に農薬散布用ドローンの開発着手に伴いUAV事業部を創設した。同事業部の業務拡張や航空法改正による無人航空機の新たな飛行ルールが導入されたことなどにより、飛行場所、空域、広さ等の条件を満たしていた旧雪沢小学校の活用が決まった。
 施設内には、ドローンの研究開発室、製造工場、ソフト開発室、講義室などが整備されている。また、グラウンドでは操縦技能講習が実施されているほか、雨天時や夜間には体育館での操縦練習も可能である。
 同社では、現在農業用や空撮用のドローンを4機種製造している。航空法が改正され、農薬散布用ドローンは国から認定を受ける必要があるが、認定企業は国内メーカー6社(平成30年6月現在でOEM販売している認定企業を除く)しかなく、現時点で4機種(製造終了した小型機1機を含む)の認定を取得しているのは同社のみである。また、農薬散布用ドローンの操縦には免許の取得が必要であり、同社では関連法規、農薬防除、操縦などを学ぶ5日間の免許取得教習も実施しており、すでに全国から100名以上が受講している。その他、風力発電機や橋梁のひび割れ具合などを点検する「インフラ点検業務用空撮コース」や、ICTを活用した建設業者向けの「i-Constructionコース」などの講習も実施している。
 昨年からは「多目的防水ドローン」の開発も進めており、防水性や空力性能の向上により、悪天候や強風下においてもドローンの活用が可能となり、今後は防災面での利用拡大も期待されている。
 現在は地元から20名を雇用、ドローンを年間150台生産し、将来的にはAIやICTに対応した先端技術の拠点とする「東光雪沢テクノパーク」を構想している。

6 まとめ

 今後も児童生徒数の減少が見込まれ、廃校施設が増加していくことは避けられない。そうした状況に備え、自治体では廃校が決定した段階から地域課題やニーズを把握し、早期に廃校活用の取組みを開始する必要があろう。一方、廃校施設を活用するには、用途変更後の建築基準法及び消防法の基準に適合させるために多額の改修費用を要するなどの課題もある。しかし、地域住民に親しまれた施設を活用することは、地域内外の交流を生み、雇用の創出、コミュニティの維持に繋がるなど、地域経済を活性化させる重要な拠点になると考える。
(山崎 要)
あきた経済

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