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県内キャッシュレス決済の現状

 近年、キャッシュレス決済導入の動きが広まっている。もともと日本は現金志向が根強いとされ、治安や現金の使い勝手の良さもあり、家計最終消費支出に占めるキャッシュレス決済の比率は、2割程度となっている。一方で、政府は訪日外国人観光客増加への対応や生産性向上のため、キャッシュレス比率を高めるべく、具体的な数値目標を設定するなど、その動きは加速している。
今後更なる広がりをみせるキャッシュレス決済の動向について、本県内の現況も合わせて概観する。

1 はじめに

 平成29年6月に閣議決定された「未来投資戦略2017」では、「今後10年間(2027年6月まで)にキャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す」とし、政府として初めて具体的な数値目標を設定した。
 その後、平成30年4月には経済産業省が「キャッシュレス・ビジョン」を発表し、非現金決済比率を将来的に世界最高水準の80%に引き上げる大胆な目標を設定するなど、その動きは加速している。
 なお、現在のところ「キャッシュレス」という言葉に対して、広く一般的に認識されている定義は存在しない。本稿では、「物理的な現金(紙幣および硬貨)を使用しない取引」と定義し、また、関係主体として主に消費者側からの目線でみていくこととする。

2 各国のキャッシュレス決済比率の状況

 国別の比較ができる2015年のキャッシュレス比率(キャッシュレス支払手段による年間支払金額÷国の家計最終消費支出)をみると、日本は18.4%となっており、主要諸外国と比較すると低位にある。現金決済が主流となっている理由としては、日本の治安の良さや金融機関の店舗網・ATMの充実により現金へのアクセスが容易であることなどが挙げられるが、世界的な潮流からは取り残されている状況にある。
 諸外国の数値を比較したとき、特に韓国のキャッシュレス決済比率が高い理由としては、1997年の東南アジア通貨危機の影響を受け、その打開策として実店舗等の脱税防止や消費活性化を目的に、政府主導によるクレジットカード利用促進策がとられたことが要因といわれている。利用促進策としては、年間クレジットカード利用額の20%の所得控除(上限:日本円換算約30万円)や宝くじの参加権付与、日本円に換算して年商240万円以上の店舗にはクレジットカード取扱いを義務付けるなどの措置がとられている。
 スウェーデンもキャッシュレス先進国といわれ、1990年代初頭の金融危機を受けて、金融機関を中心に国家を挙げて生産性向上を目指したことが背景の一つにある。また、冬季期間の現金輸送の困難さや慢性的な人手不足から、現金を取り扱う金融機関や交通機関等の防犯対策として推進された側面もある。個人間送金の手法としては2012年12月にスマートフォンアプリとして登場した「Swish(スウィッシュ)」が代表的なものである。2014年6月には企業への支払い、2017年1月には電子商取引での利用も可能になるなど、サービスを拡充しており、スウェーデンの総人口約1,000万人のうち、約60%が利用しているとの統計がある。
 中国でもキャッシュレス化の進展が著しいが、これは偽札横行や脱税問題など現金の信頼性に関わる課題への解決策として、決済システムやルールの刷新が図られたことが背景とされる。また、2000年以降インターネットを介した様々なサービスが普及するなか、アリババ・グループの「アリペイ」に代表されるスマートフォンアプリを利用した送金システムが誕生し、現在では生活の必需品としての地位を確立している。

3 キャッシュレス決済の種類

 日本におけるキャッシュレス決済の種類については、消費者側の目線でみたとき、実際に代金を支払うタイミングによって、まずは大きく三つに分類される。

(1)前払い<プリペイド>型
 「電子マネー」に代表される決済方式で、事前に利用金額分をカード等の媒体に入金(チャージ)し、その金額を限度として繰り返し利用できる特徴を持つ。

a 電子マネー
 電子マネーについても、明確な定義はないが、日本銀行決済機構局が2008年8月に発表した「決済システム等に関する調査論文」の中で、「一般に『電子マネー』と呼ばれるものは、利用する前にあらかじめ入金(チャージ)を行うプリペイド方式の電子的小口決済手段を指す」としている。
 なお、電子マネーは基本的な仕組みに変わりはないものの、様々な店舗や地域で利用可能なICチップ型(汎用型)電子マネーと、特定の系列店や域内でのみ利用できるハウス型電子マネーとに分類される。さらに、ICチップ型(汎用型)は、楽天Edyなどの専業系、鉄道・交通会社が発行する交通系、イオンなど小売業が発行する流通系に分類することもできる。

b ギフトカード
 「QUOカード」や「図書カード」などのギフトカードも、以前から存在するサービスではあるが、決済時に現金を伴わないことから、キャッシュレス決済と位置づけられる。あらかじめ定められた金額分を購入するほか、サービスの種類によっては任意の金額を指定して購入(入金)するものもある。また、従来は紙幣を模した紙の媒体が多かったが、現在はカード型が主流となっている。

c 国際ブランド・プリペイドカード
 国際ブランドである「JCB」や「VISA」が発行するプリペイドカードのことで、各ブランドの加盟店で利用可能であり、チャージ機能を利用して繰り返し使用できる。また、チャージ額がそのまま利用限度額となるため、審査が不要という特徴を持つ。

(2)即時払い<リアルタイムペイメント>型
 「デビットカード」に代表される決済方式で、利用と同時に所有者の預金口座等から代金が引き落とされる仕組みであり、基本的に利用限度額は預金口座の残高となる。海外では欧米を中心に最もポピュラーな決済手段とされている。

a J-Debit
 「J-Debit」は、日本独自のサービスで2000年3月から金融機関のキャッシュカードを利用する仕組みとして始まった。J-debit加盟店での支払時にキャッシュカードを提示し、端末に暗証番号を入力すると、利用代金が口座から即時に引き落としされる。

b 国際ブランド・ブランドデビットカード
 「ブランドデビットカード」は、金融機関が国際ブランドと提携して発行するカードで、こちらも基本的に預金口座の残高を利用限度額とし、利用代金が口座から即時に引き落とされる。「JCB」、「VISA」といった各ブランドの加盟店で利用可能であり、「J-Debit」に代わり普及が進んでいる。

(3)後払い<ポストペイ>型
 「クレジットカード」に代表される決済方式で、決済手続き後に代金が請求される仕組みである。

a 国際ブランド・クレジットカード
 国際ブランドが発行する「クレジットカード」は、各加盟店での利用に加え、インターネット通販での決済等にも使われ、日本で最も広く利用されているキャッシュレス決済方式である。原則として審査が必要であり、あらかじめ利用限度額が設定されるのが一般的となっている。

b 非接触ICクレジットカード
 「QUICPay」、「iD」などは、非接触ICチップを搭載し、利用方法としては電子マネーの一種であるが、事前のチャージが不要で、クレジットカードと同様に後払いとなる。

(4)その他
 上記以外のキャッシュレス決済方法としては、中国発の「アリペイ(アリババ)」、「We chat pay(テンセント)」に代表される「QRコード決済」がある。これは、スマートフォンのアプリからQRコードを表示し店舗等で読み取ってもらうか、店舗等にあるQRコードを自身のスマートフォンで読み取ることにより、決済が完了するものである。日本でも「楽天ペイ」や「LINE Pay」などのサービスが始まっているほか、国内メガバンクもQRコード規格統一での連携を表明するなど、今後広がりをみせる可能性が高い。
 なお、現在一般的に利用されている預金口座からの振込や送金、口座振替なども直接現金を伴わないという点では、キャッシュレス決済といえるが、本稿では除外する。

4 拡大する電子マネー

 キャッシュレス決済の仕組みは多種多様であり、新たなサービスも登場しているが、とりわけ電子マネーは急速に普及が進んでいる。
 日本銀行が発表している「決済動向」によると、電子マネー8社(楽天Edy、SUGOCA、ICOCA、PASMO、Suica、Kitaca、WAON、nanaco)の2017年の決済金額(交通系については、乗車や乗車券に利用された金額は含まれない)は、5兆1,994億円、決済件数は54億2,300万件にのぼる。年間の統計が最初に出された2008年と比較すると金額では5.2倍、件数では6.9倍の規模に成長している。
 発行枚数(2017年7月末現在)をみると、日本における電子マネーの先駆者として2001年11月からサービスを開始している「楽天Edy」が約1億480万枚(前年同月比7.9%増)で首位となっている。交通系では、先行してサービスが始まった東日本旅客鉄道(JR東日本)の「Suica」が約6,371万枚(同8.7%増)と多いが、その他鉄道会社の発行枚数も高い伸び率を示しており、急速に普及していることがわかる。流通系では、セブン&アイ・ホールディングスの「nanaco」が約5,609万枚(同14.2%増)、イオン系の「WAON」が約6,660万枚(同11.9%増)と発行枚数が二桁の伸び率となっている。また、各社とも電子マネーカード単体での発行に加え、グループ内もしくは提携するカード会社が発行するクレジットカードへの付帯も広がっており、発行枚数を増やしているようだ。
 加盟店/利用可能箇所/端末数も増加しており、スーパーやコンビニといった一般的に想定される場所に加え、ドラッグストア、専門店・商店、飲食店、レジャー施設、ホテル・旅館なども対象になってきている。
 決済件数は、公表されているなかでは、「nanaco」が半年分の集計ながら約8億7,985万件(同5.8%増)と他を圧倒している。また、イオンが発表した「WAON」の2015年度年間利用額は約2兆592億円となっており、国内ICチップ型電子マネーとして初めて2兆円を突破したとされる。いずれも利用可能範囲が広いことや系列店舗でのポイント付与サービス等を実施していることがシェアを高めている要因といえそうだ。
 ポストペイ型の「QUICPay」、「iD」も発行枚数を増やしている。利用可能範囲が広がっていることに加え、国内スマートフォン市場で圧倒的なシェアを持つアップル社の「iPhone」が、2016年10月から「Apple Pay」サービスに対応(※)したことが増加の要因ともいわれている。「Apple Pay」は、「QUICPay」や「iD」等のカード情報を端末内に取り込み、利用する店舗等では端末を読取機にかざすことで決済が行われる仕組みであり、カードを取り出す手間が省けるなど利便性が高い。(※)基本的に「iPhone6」以降の機種が対応。機種によっては、一部機能に制限がかかる場合もある。

5 県内のキャッシュレス決済比率

 県別・地域別のキャッシュレス決済比率に関する網羅的な統計は現在のところ取られていないが、平成26年商業統計調査では、年間商品販売額の販売方法別割合において、電子マネーによる販売が新たな調査項目として設けられていることから参考にしてみる。
 本県の販売方法別・年間商品販売額構成比をみると、小売業全体(8,854事業所)では、現金による販売が65.2%、電子マネーが3.0%、クレジットカードが8.6%、掛売・その他が23.2%となっている。
 現金による販売が圧倒的に多く、本稿で定義したキャッシュレス決済の比率としては、電子マネーとクレジットカードの合計で11.6%にとどまる。統計方法が異なるため、前述の日本におけるキャッシュレス決済比率(18.4%)と単純比較することはできないが、やはり現金での決済が主流であることは確認された。
 産業分類別にみると、百貨店・総合スーパー等の「各種商品小売業」では、電子マネーの比率が他の業種に比べて高く18.4%となっており、クレジットカードの22.7%とあわせると、キャッシュレス決済比率は41.1%にのぼる。
 「織物・衣服・身の回り品小売業」では、現金が73.9%と高くなっているものの、キャッシュレス決済比率も19.5%(電子マネー1.3%、クレジットカード18.2%)とある程度の割合を占めている。
 「飲食料品小売業」のうち、食品スーパー等の「各種食料品小売業」では、現金が85.8%と高く、キャッシュレス決済比率は13.1%(電子マネー8.3%、クレジットカード4.8%)となった。同じくコンビニ等が含まれる「その他飲食料品小売業」でも現金が86.9%と高く、キャッシュレス決済比率は5.5%(電子マネー2.9%、クレジットカード2.6%)にとどまった。
 「その他小売業」のうち、ガソリンスタンド等の「燃料小売業」は、現金の比率が44.8%と他の産業分類と比較して低くなっている。キャッシュレス決済比率は14.7%(電子マネー0.3%、クレジットカード14.4%)となり、クレジットカードの利用が数字を押し上げている。また、掛売・その他の比率が40.5%と他の産業分類と比較して高くなっており、月末締め・後払い等の法人契約における商習慣によるものと推測される。「写真機・時計・メガネ小売業」では、現金が69.2%、キャッシュレス決済比率は27.6%(電子マネー1.3%、クレジットカード26.3%)となり、特にクレジットカードの利用が多いことがわかった。
 全体を通してみると、全ての産業分類で現金の利用が最も多かったものの、食料品を扱うなど、日常生活に密接している産業では、電子マネーも一定程度利用されていることがわかる。また、服飾や娯楽・趣味に関する高価格帯の商品を扱う産業では、クレジットカードの利用が相対的に高いともいえる。

6 日米通商問題

 県内でも独自にキャッシュレス決済を導入している事例があり、一部を紹介したい。

(1)タクシー運賃のキャッシュレス化
 国際タクシー株式会社(秋田市)では、平成29年8月から車内で無料の公衆無線LAN「Wi-Fi(ワイファイ)」を利用できるサービスを導入し、合わせて運賃のクレジットカード決済にも対応した。同年11月からは県内で初めて電子マネー(「WAON」、「iD」)での決済にも対応し、利便性の向上を図っている。
 従来は同サービス導入に際し、専用の車載器を必要としていたが、導入の数年前からNTTドコモと協議を重ね、市販のスマートフォンを利用する方法を開発した。これにより導入費用が抑えられたほか、端末を他の車両へ移して運用できるなどのメリットがあるという。
 同社は、以前から観光タクシーにも力を入れており、県外からの観光客やクルーズ船に乗って来県した外国人観光客への対応を進めてきた。
 髙田和明社長は、「様々な選択肢をご用意し、県内外を問わず、全てのお客様の利便性向上に努めたい」とし、今後は電子マネー「nanaco」へも対応するほか、現在11台ある端末を倍増させるとしている。一方で、クレジットカードや電子マネーの情報管理は、厳重に行う必要があるとし、勉強会開催など社員教育を徹底しているとのことであった。

(2)大学におけるキャッシュレス化
 国立大学法人秋田大学(秋田市)では、学生が大学生協に加入すると組合員証「コプリカカード」が発行され、大学内の購買や食堂、自動販売機などでプリペイド機能を利用した電子マネー(ハウス型)としても利用できる。大学生協によると、食堂などが混み合う時間帯等において、スピーディーに決済が行われることで利用者の利便性向上が図られるほか、売上現金の精算などの職員側の事務負担軽減といったメリットもあるとしている。
 また、同大学では学外での日常的な決済に金融機関が発行するデビットカードを推奨しており、現金の持ち歩きを最小限に抑え、紛失などのリスク低減を図ることも呼び掛けている。デビットカードは預金口座と連動し、入出金の記録が残ることから、自身のお金の使い方を把握する生活管理の面でも有効としているほか、電子マネー、デビットカード、クレジットカードなど様々な金融サービスを学生が経験し、仕組みや違いを理解することが金融教育にも繋がるのではないかとしている。

(3)自治体における取り組み
 仙北市では、平成30年5月から市税等のクレジットカードでの収納サービスを開始している。これは、仙北市と秋田銀行が「クレジット収納推進協定」を締結してシステム整備を進めたもので、東日本の自治体として初めての導入となる。
 市が発行した市民税・県民税、固定資産税、軽自動車税、保育料などの納付書が対象で、「仙北市納付サイト」にアクセスし、納付書のバーコードをスマートフォン等の内蔵カメラで読み取り、クレジットカード番号を入力することで納付できる仕組みとなっている。専用のスマートフォンアプリを導入する必要はなく、24時間、場所を問わず納付することが可能で、利便性が向上したといえる。<

7 おわりに

 キャッシュレス決済の導入は様々な方面で進んでいるものの、世界基準に達するまでの道のりはまだ緒に就いたばかりである。
 本稿では主に消費者側からの目線でみてきたが、キャッシュレス推進のためには、実店舗など「使える場所」の裾野拡大も重要となる。FinTech企業等による新たなサービスも始まっており、比較的低コストで導入できる仕組みも揃ってきたが、さらに導入に対するハードルを下げるためには、官民協働による環境整備が必要といえる。
 本県においても、さらにキャッシュレス化を推進し、増加が見込まれる訪日外国人観光客等の受け入れ体制を整えることで、収益機会の逸失を防ぐとともに、深刻化する人手不足への対応策として生産性向上を図り、地域経済の活性化にもつながることを期待したい。
(打矢 亘)
あきた経済

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