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企業の海外進出を巡る動きについて

 人口減少や少子高齢化などで国内需要が伸び悩む中、海外に活路を求め、海外進出する企業が増加傾向にある。政府もこうした企業の動きを後押しするため、昨年6月に策定した新たな成長戦略「日本再興戦略‐ジャパン・イズ・バック‐」の中で、企業の海外展開支援を重要な施策と位置づけ、体制の強化を図っている。また、県内においても県内企業の海外進出を支援する「あきた海外展開支援ネットワーク」が今年1月に設立されるなど、官民一体となった取り組みが進められている。小稿では国内および県内企業の海外進出を巡る動きについてまとめてみた。

1 国内企業の海外進出の状況

(1)企業の海外進出が加速した背景
 国内企業の海外進出は、第二次世界大戦後一時中断していたが、旧外為法が施行された1951年に再開された。その後、70年代前半から徐々に増えはじめ、80年代半ば以降急速に加速した。これは1985年9月、ニューヨークで開催された先進5か国蔵相・中央銀行総裁会議(G5)において、日米間の通貨を調整することが決議された“プラザ合意”に起因する。当時の米国経済は財政赤字と経常収支の赤字という「双子の赤字」を抱え、85年の経常収支は対GDP比で▲2.7%と赤字幅を拡大させていた。一方、日本経済は第2次オイルショックの影響が薄れ、輸出主導型の経済成長により同年の実質経済成長率は前年比6.3%増と高成長を遂げ、経常収支についても対GDP比で3.7%と黒字幅を年々拡大させていた。こうした日米間の貿易不均衡を理由に貿易摩擦が激化する中、米国議会では各種の対日報復決議案が採択されるなど保護貿易主義的な動きが強まり、G5でドル高を是正するための通貨調整が決議されるに至った。
 この結果、急激な円高ドル安が進み、オイルショック以降日本の代表的な輸出型産業となった自動車、家電、半導体、精密機械などは輸出採算の悪化を招き、これに対応するため海外現地生産体制がとられるようになり、国内企業の海外進出が加速した経緯にある。

(2)日本の海外直接投資額の推移
 日本の海外直接投資額の推移をみると、1985年は1兆5,362億円であったが、90年には7兆3,518億円と約5倍になった。その後は円高が一段落する一方で投資額も減少したが、2000年に入ると緩やかに増えはじめ、08年には13兆2,320億円と過去最高額を記録した。ただ、同年秋にリーマン・ショックが発生したこともあり、09~10年の投資額は大きく減少したが、11年に円相場が戦後最高値を更新し歴史的な円高水準が定着すると、投資額は再び増加傾向を辿り、昨年は過去2番目となる13兆1,943億円まで回復している。

(3)海外進出企業数の推移
 海外に進出する企業数についても、近年増加傾向にある。経済産業省が海外に現地法人を有する国内企業を対象に毎年実施している「海外事業活動基本調査」によると、2011年度末時点で1万9,250社(製造業8,684社、非製造業1万566社)に上り、10年前から約6,800社増加した。国内企業の海外進出はプラザ合意以降、自動車産業をはじめとする製造業を中心に進んだが、07年度以降は非製造業が製造業を上回るようになり、従来は内需型と考えられてきた小売業やサービス業にも海外進出の動きが広がっている。
 地域別では、アジアが12,089社と全体の62.8%を占め、中でも中国に進出している企業は5,878社と世界で最も多い。中国やASEANなど成長著しいアジア新興国市場へ進出する企業が活発化していることが分かる。一方、北米は2,860社、欧州は2,614社と、同地域への進出企業は緩やかに増加しているものの、全体に占める割合は低下傾向にある。
 また、同調査では、新規投資、または追加投資を行った企業に対して、投資決定の際のポイントについて聞いている。2006年度と2011年度を比較すると、2011年度は「現地の製品需要が旺盛又は今後の需要が見込まれる」と回答した企業が73.3%と最も高く、5年前より7ポイント上昇した。一方、「良質で安価な労働力が確保できる」と回答した企業は5年前より11ポイントも減少している。アジア新興国の所得増加などに伴い、現地法人企業の役割が「製造拠点」としてだけでなく、「販売市場」として重要性を増していることが推測される。
 昨年12月の日本経済新聞社による「社長100人アンケート」でも、2014年度の国・地域別の設備投資見通しについて、経営者の32.6%が東南アジア向けの投資を今年度よりも増やすと答えている。日本向け(2割)や、中国、インド向け(各1割強)を上回り、東南アジアを重視する姿勢が鮮明になっている。人口減少や少子高齢化などで国内需要が伸び悩む中、長期的な発展が見込まれるアジア新興国の旺盛な需要を取り込む動きが強まっており、今後も国内企業の海外進出は拡大が続くとみられる。

2 県内企業の海外進出状況

 秋田県の海外進出状況は、当研究所が昨年9月に実施した「第89回県内企業動向調査」の中で、自社の海外進出状況について聞いたアンケート結果をもとにみてみる。この中での「海外進出」の定義は、事業所の進出だけでなく、販路拡大のための輸出も含めたものであるが、回答企業数270社のうち、「既に進出している」と答えた企業は12.2%(33社)であった。
 業種別では、製造業が22.0%(27社)となり、このうち電子部品30.4%(7社)、機械金属26.9%(7社)の2業種で海外進出が進んでいる。また、酒造では50.0%(6社)が既に進出していると答えており、輸出による海外展開が積極化していることが窺われる。一方、非製造業は4.1%(6社)と少ないものの、運輸、情報サービスなどで進出している企業がみられる。
 県内企業の海外進出は、現状では全産業で1割程度に止まっているが、「現在はしていないが、進出する予定がある」と答えた企業が1.1%(3社)、「現在はしていないが、検討は行いたい」と答えた企業も5.2%(14社)あり、これらの企業の展開次第では、今後県内企業の海外進出も徐々に増えてくる可能性がある。

3 活発化する支援の動き

 政府はこうした企業の海外進出の動きを後押しするため、昨年6月に策定された新たな成長戦略「日本再興戦略」の中で、企業の海外展開支援を重要な施策と位置づけ、体制の強化を図っている。
 具体的には、今後5年間で新たに中小企業1万社の海外展開を実現する計画を打ち出し、日本貿易振興機構(ジェトロ)や海外でのビジネス経験・ノウハウが豊富な企業等OB人材を活用して、海外展開を目指す企業を一貫支援するハンズオン体制の拡充・強化を行う。また、ジェトロが現在、中国、インドなど新興国8か国、10拠点に開設している「中小企業海外展開現地支援プラットフォーム」を整備して、海外展開後の法務・労務・知財問題等の専門サービス支援や万一の縮小撤退等のトラブルにも対応できる体制を構築するとしている。
 また、秋田県においても県内企業の海外進出を支援する「あきた海外展開支援ネットワーク」が今年1月に設立され、官民一体となった取り組みが進められている。同ネットワークは、県、貿易支援機関、金融機関、商工団体など計12団体から構成され、①支援機関相互の情報共有、②相談対応機能の強化、③海外展開支援に関する情報発信の強化、④セミナーや商談会の合同開催など支援機関相互の事業連携の強化、⑤海外展開取組企業の拡大等の事業を通じて、企業の海外進出をサポートする。
 2月に開催された会議では、各事業の具体的な取組み案やスケジュールが示され、海外展開施策集の作成、各支援機関の関連情報が一覧できるポータルサイトの開設、海外展開取組企業の拡大を図るためのアンケート調査の実施、先行事例集の作成などが予定されている。
 同ネットワークの設立により、これまで各支援機関が行ってきた施策や情報が一元化される意義は大きい。企業の海外進出には、商習慣や文化、法制度の違いなど様々なリスク・課題を伴うため、専門的知識や情報を有している各支援機関の連携が有効となる。今後、同ネットワークを利用した県内企業の海外進出拡大が期待されるところである。

4 今後の課題と対応策

 企業の海外進出が進むと、一方で国内産業の空洞化につながるという懸念が残る。一昨年末の安倍政権発足以降、アベノミクス効果で為替は円安が進んだが、日本の輸出は伸びず、2013年の貿易収支は過去最大となる10兆6,399億円の赤字を記録した。通常、為替が円安なると輸入価格が上昇し貿易収支は一時的に悪化するものの、時間差で輸出数量が伸び始め貿易収支は改善に向かうとされる。しかし、今般の円安局面ではこうした「Jカーブ効果」はみられず、その要因の一つとして、製造業の海外生産移転、産業の空洞化が指摘されている。日本の製造業は過去の円高局面において、海外現地生産比率を30%程度まで高めてきており、その結果、円安でも輸出が伸びない状況が続いている。
 今後、企業が海外進出するうえで重要となるのは、海外で稼いだ所得を日本に戻す循環をつくることである。海外での稼ぎを示す所得収支は、昨年、16兆5,318億円の黒字を計上し、過去最高となった。辛うじて貿易収支の赤字額を上回ったため、経常収支は黒字を保ったが、今後、海外で稼ぐ力をつけていかないと、経常赤字が常態化する可能性もある。
 秋田県の人口は2040年には現在よりも35万人減少し、70万人になると推計されており、県内市場の縮小は避けられない。人口減少のスピードに合わせて事業規模を縮小する、または経営統合によって規模を維持するという選択肢もあろうが、需要が広がる海外に市場を求めて規模を拡大するグローバル企業の増加が待たれる。一つでも多くの企業がグローバル企業として外貨を稼ぎ、秋田県に所得を還流させる循環づくりを急ぎたい。

(山崎 要)

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