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「過疎化と地域再生」を考える

 地場産業の振興が思うに任せない中で若者の流出と住民の高齢化が進み、本県農山村部の過疎化進行が一段と速度を増している。県や市町村が懸命に政策取組しているにもかかわらず、残念ながらその勢いを押し止めることは難しい。そうした折、経済環境や住民の価値観変化を背景に、従来とは異なる観点から地域再生に取組もうとする様々な動きが、行政や地元産業界に出始めてきた。まだ目立った成果をみるまでには到ってないが、地域の将来を拓く新たな方向として期待される。

1 進む過疎と集落存続の危機

 「過疎地域」といえば、一般的には人影もまばらな農山村等をイメージするが、公式には人口が長期にわたって減り続けて財政力などが一定規準を下回ったような地域のことをいい、総務省が法律に基づき市町村単位で指定する(*1)。これに該当する地域は全国的に増加する傾向にあるが、とりわけ秋田県では25市町村のうち既に20市町村(図表1)が指定を受け、その結果、今や面積では県土の実に89.7%もが過疎のエリアに属するという、極めて特異な事態になっている。
 また、この過疎化の度合いがさらに進んで地域社会(コミュニティ)としての機能を失った集落を、近頃は「限界集落(*2)」とも呼んでいる。県内に散在する中山間地域の中には、現実にそうした様相を強く帯びた箇所もみられ、過疎地域に指定された上記20市町村(3,989集落)を対象に秋田魁新報社が調査(平成22年11月)した結果では、少なくとも165の集落がその範疇に該当、うち9集落は臨界点を超え10年以内に消滅する可能性さえあるという。
 もとより、そうした現象の背景にあるのは、県内でも農山村部でより深刻な経済の停滞と、人口減少および高齢化の進行であろう。これらの現状については改めて詳述するまでもないが、ただ一つ高齢化について補足すると、本県農業就業人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、平成7年当時には39.5%だったものが同22年には60.5%にまで急上昇している(農水省「農林業センサス」)。
 若者が職と収入を求めて都市部に流出し、残った高齢者たちが営々と農林地を守っている姿が、限界集落に限らずこのところ県内農山村部では、普通に見られる風景となってしまった。地場産業の振興が思うに任せない中で、人口減少と高齢化は着実に進行し、農山村の経済社会が次第に衰退に向かいつつある様子が明らかである。
(*1)過疎地域自立促進特別措置法(過疎法)に基づき、人口や財政力等を基準に指定する。「過疎地域市町村」、「過疎地域とみなされる市町村」、「過疎地域とみなされる区域のある市町村」の3区分があるが、ここではこれらに該当する地域すべてを「過疎地域」に含める。全国における過疎市町村数は776、全市町村の45%(平成23年4月)にあたる。
(*2)公式の定義はなく、一般的には「65歳以上の高齢者が住民の半数以上を占め、共同体機能が低下している集落」を指す。県では、これを「小規模高齢化集落」と名づけている。

2 これまでの地域再生への取組と限界

 こうした事情から、とりわけ本県では過疎対策が焦眉の課題となっているが、農山村地域の再生・活性化に向けた取組は、以前から国および県、市町村各々の段階で懸命に続けられてきた経緯にある。
 まず国レベルでは、昭和45年以来4次にわたる過疎対策立法(*3)とともに、財政、税制、行政面など地域の自立を支援する各種措置が、全国的規模で講じられてきた。他方、県は既に昭和26年の「秋田県総合開発計画」以来、「農工一体の郷土づくり」を標榜して施策を重ねてきたところであり、また各市町村も、これらと歩を合わせて産業の振興、生活や交通通信基盤の整備、教育・医療・防災設備の充実など、地域を支えるキメ細かな対策を連綿と施し続けてきた。
 県内の農山村地域が、厳しい環境条件の中でこれまで生業を保ってこられた背景には、こうした施策の効果が多分にあったことはいうまでもない。しかしその一方で、多くの手立てを講じて産業の衰退、人口の流出を抑制したとはいいながらも、結果としてこの流れを押し止めることができなかった、ということもまた残念ながら事実である。それどころか冒頭に記した状況からみれば、むしろ地域の衰退はなお強い勢いで進んでいる、とさえ言わざるを得ないのが実情である。
(*3)過疎地域対策緊急措置法(昭45~)、過疎地域振興特別措置法(昭55~)、過疎地域活性化特別措置法(平2~)、過疎地域自立促進特別措置法(平12~)

3 従来の施策を見直す必要性

 こうした状況は本県に限ったことではなく、全国でも多くの地域が同様の厳しい情勢下にあることを考えると、これら一連の動向は、基本的な地域対策の方向について、別の角度からも見直してみる必要のあることを示唆しているように思われる。
 因みに、これまでの地域再生を巡る基本施策には、根底に「農村に工業を導入するとともに離農者を工場労働者として吸収、もって地域の所得向上と人口流出抑制(=都市の過密化抑制)を図りつつ、併せて日本経済全体の底上げを期す」という、高度成長時代の理念がまだ色濃く反映していた。しかし、昨今、グローバル化が激しく進む中では、農山村地域の現状も国際経済の大枠の中で規定される部分が急速に拡大し、そうした産業の国内再配置をベースとするシナリオでは、既に追随しきれなくなった面がある。それは、例え秋田県の一辺地と雖も例外とはなり得ず、従って、程度の差こそあっても、各々が世界規模での産業構造変化や市場経済化の中に、新たな居所を探す努力が求められだしている。
 こうした事情は、依然企業誘致を必要とする一方で、県内でも工場の海外立地が進みつつあるという一事からも具体的に窺えよう。最早、地域を一括りにして公共事業や企業誘致による産業振興を図るといった従来図式だけでは、地域経済の衰退やそれにともなう人口流出という潮流を、喰い止めることが困難となっている。

4 模索される新たな方向

 先に、秋田県と市町村でつくる「県高齢化等集落対策協議会」が過疎集落を対象に実施した住民意識調査(平成21年~22年)において、興味深い結果がみられた。「住みにくい」と答えた世帯の割合は全体の1割強に過ぎず、健康や交通手段、後継者の確保や地域の存続に強い不安を唱える一方で、人間関係や自然環境を理由に「住みやすい」と答えた世帯が、8割以上に上ったということである。
 これは、多少補足を加えて言い換えると、基盤整備や社会資本については十分とはいえないまでも都市部との格差が一定程度縮まり、昨今希求される分野は医療・交通等の「生活インフラの充実」、及び後継者育成など「地域を支える仕組み作り」である、ということでもあろう。即ち都市部とは異なる地域自身の価値観も拡がりだし、それとともに求められる方向は必ずしもハード分野のさらなる整備ではなく、むしろ地域社会を維持・発展させるためのソフト的な施策になってきた、と理解される。
 近頃こうした傾向の強まっていることは、実は本調査のみならず全国的にも多く指摘されるところである。このため、上記の視点を加えた地域再生策の新たな方向が、近年は広い範囲で模索されるようになっており、本県でも行政や産業界、及び大学、研究機関等の様々な部門、分野で、従来とは若干方向の異なる地域活性化の取組が始められている。

5 具体的に出始めた動き

 目下、本県で取組んでいる「ふるさと秋田元気創造プラン」も、そうした視点を加えた総合振興計画だが、同様の趣旨で、県は2009年に「活力ある農村集落づくり推進チーム」を設置、「秋田元気むら活動(*4)」を開始して地域とともにキメ細かく活性化活動に取り組む方向を打ち出した。また、国でも同じ観点から集落支援制度(*5)や、地域おこし協力隊といった組織を新たに創設しており、さらに市町村においても、最近は各地域で「自立促進計画」を策定、コミュニティービジネスの創出・育成や伝統行事など地域再生活動への支援、助成等に取組んでいる。行政の施策の重点が、住民自身を主対象に日々のくらしの面から活性化を図る方向にも、1つ置かれだした様子がみてとれる。
 他方、地場の産業界においては、農商工連携や6次産業化といった、地域内異業種が連携して新規事業に乗り出す例が多くみられる。加えて、B級グルメ運動や地元食材を活用した新商品の開発・販売、さらには伝統行事再生への取組、ローカル鉄道利用キャンペーンのような、いわゆる「食」と「観光」の分野から地域振興を図る活動も盛んである。
 こうした地域の一連の動きに目をやると、全体に共通する特徴は、従来からのやや行政頼みとなりがちな色合いが薄れて、「地元の事業体、住民が主体的に係わる」割合が、これまでになく大きくなりだした点であるように思われる。しかも、個々の事業規模は必ずしも大きなものではなく、また相当数は行政支援を受けつつも、基本的には自らの責任で新事業を営むという点で、活発な取組になっている例が多い様子である。農山村部における産地直売所が概ね元気であることは、身近なところでの好例といえよう。(*4)県民が自分たちでできることから集落の元気づくりを応援しようという県民一人一役運動。集落にとっては、地域外応援団との交流が生まれることで、自立や活性化に向けて自ら行動する動機づけに役立っている。(*5)過疎に悩む集落に専門の相談員を置き、集落の課題や要望を調査して解決策を提言する集落支援員の制度。2009年度から総務省が開始した。

6 最後に

 もとより、課題とする産業振興及びそれによる就業機会の拡大実現のためには、これらの事業を発展させ、地域の自立を可能とするレベルに引上げていく必要がある。しかし、現状大部分はその1歩を踏み出した段階に過ぎず、また各々課題も抱えることから、一気に規模拡大を図ることは困難であろう。
 ただ、供与された計画ではなく、先述のように地域が「自主的」に取組む姿勢と努力の中からは、新たな産業化の足がかりが生まれる可能性も決して少なくないと思われる。一例として、本県では元来食材が豊富で、現状の地域ビジネスは圧倒的に地元農産品関連が多いことから、「農業と食」がその1つの有望分野になり得ることが、しばしば指摘されるところである。もとより、これは秋田県自体が目下基幹事業として進める計画の一つでもあり、極めて有意な方向であると考えられるが、その際は、産物に加工を加えることで少量生産でも付加価値の高い製品作りを目指すこと、及びそれらの販路として海外も含む市場開拓に尽力すること、等にも併せて意を向ける必要があろう。
 何れにしても、グローバル化の下での地域の自立は、規模の大小はともかく以上のように糧とする事業を自ら起し、行政の支援とともにそれを主体的に生成拡大していく努力こそが本筋と考えられる。また、さらに言えば、県内各市町村の中でもそれを成し得た地域こそが再生への道をたどることができる、ということでもあろう。厳しい道筋となるが、グローバル世界の中での地域再生とは、実際そうした方向を指すのではなかろうか。

(高橋 正毅)

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