トップ機関誌「あきた経済」トップ外国人から見た県内観光の現状と課題

機関誌「あきた経済」

外国人から見た県内観光の現状と課題

 県内の外国人宿泊者数は増加しているものの、「訪日外客訪問地調査」では、本県の訪問率は東北最下位、全国でも39位の低位となっている。そこで、外国人から見た県内観光の現状と課題を把握するため、県内の大学に在籍する留学生を対象にアンケート調査を行った。その結果、花火大会などの祭事や、自然、温泉が好まれていることが分かった。観光地では、男鹿半島や田沢湖、十和田湖などの景勝地や角館が人気を集めた。また、食事の味わいや県民のホスピタリティが高評価を得た一方、アクセスの不便さや英語の対応が不十分との指摘があった。
 本県ならではの魅力をアピールしながら、外国人客が旅行しやすい環境整備に取り組むことが、インバウンド振興に繋がるものと期待される。

1 訪日外国人観光客について

 国土交通省が中心となって実施している「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が平成15年に始まってから、訪日外国人数は増加傾向にあり、日本政府観光局によると、22年は過去最高の861万人に達した。同局の実施した聞き取り調査「訪日外客訪問地調査」から、同年における外国人客の都道府県別訪問率(各都道府県を訪れたと回答した数/全回答者数)をみると、東京都が60.3%で抜きんでて高く、次いで、大阪府(26.1%)、京都府(24.0%)、神奈川県(17.8%)、千葉県(15.0%)と、外国人客は主に首都圏や近畿を訪問している。本県の訪問率は0.4%で、全国39位である。東北他県では、宮城県(1.8%)が22位、青森県と福島県、山形県がいずれも0.7%で29位、岩手県(0.5%)は38位である。なお、東北を訪れる客はリピーターが多いとされる。

2 本県の外国人観光の状況

(1)韓国・台湾などアジアが全体の86.0%
 本県の外国人観光の状況について、秋田県「観光統計」によると、外国人宿泊者数は増加が続いて、平成22年で54,828人となった。
 アジアが全体の86.0%を占めており、なかでも韓国が48.0%、台湾が21.1%となるなど、定期便やチャーター便で直接結ばれている国からの外国人客が多い。
 韓国については、平成13年10月のソウル定期便就航以来、搭乗率自体は低迷が続いているものの、観光客数は増加傾向にある。韓国人客には、県内の温泉やゴルフ場、「涙を流すマリア像」などの人気が高く、最近では、21年にドラマ「アイリス」ブームが巻き起こった。しかしながら、せっかく秋田空港から入国しても、隣県に大型の宿泊施設があることや、これまでの受け入れ実績が豊富であることから、本県を通過してしまうケースがみられる。
 台湾については、平成16年度以降、本県との間にチャーター便が運航されており、22年度の秋田空港発着の国際チャーター便全28便のうち24便を台湾便が占めた。同便は毎年10・11月という秋の旅行シーズンに多く乗り入れており、台湾人客には県内の紅葉など自然や温泉が好まれている。

(2)宿泊客数割合は10~12月が最高
 平成22年の県内外国人宿泊客数の四半期別割合をみると、北米など日本と同じような気候の国々で春や夏が、オセアニアやアフリカ、南米など南半球では秋・冬が高い。本県は冬季の観光振興が長年の課題とされているが、観光客は自国に無いものを求めて旅行をする傾向があるため、温暖な国々に対しては、寒冷な気候や降雪がネックではなく、逆に魅力となっているともいえる。

(3) 本県の外国人観光客受け入れ態勢
 県内では、官民が協力して外国人客の誘客や受け入れ態勢の強化を図っている。県では韓国と台湾をターゲットに、ホームページの開設や、現地旅行会社の招待を行い、誘客活動を実施している。観光地や宿泊施設でも、商品の低価格化や、外国人向けの表示設置、専用メニューの用意などを行って受け皿の整備を図っているが、各地・各施設によってバラつきがあり、外国人客対応が進んでいるとは言い難い面もある。
 最近は、観光団体が県内の留学生をモニターツアーやイベントに招き、助言を求める機会が増加している。秋田地域留学生等交流推進会議によると、平成22年10月現在、県内の留学生数は415名で、中国出身者が全体の23.8%、韓国が11.8%など、アジアを中心に約50か国から集まっている。留学生たちは、外国人の視点からの提言、宿泊施設での通訳、母国に向けた観光情報の発信などの手伝いと、本県観光業の大きな力となっている。

3 アンケート結果

 当研究所では、本年10月、秋田大学と秋田県立大学、国際教養大学に在籍する留学生を対象に、県内観光に関するアンケート調査を行った。回答者110名のうち、本県に住んで1年以内という割合が全体の68.2%、日本では本県以外で暮らしたことがない割合が69.1%となっており、新鮮な視点から回答をいただいた。

(1) 海外における秋田県の知名度
 回答者の母国における本県の知名度について質問したところ、「よく知られている」が7.3%、「あまり知られていない」が92.7%で、知名度の低さが浮かび上がった。
 「よく知られている」と回答した8名の国籍は、中国が3名、台湾2名、韓国、ベトナム、カナダが各1名と、アジアがほとんどである。

(2) 本県の観光資源や食べ物などについて
a 好きな観光資源(2項目複数回答)

 回答者に人気のある県内観光資源では、「山・海・滝・湖など自然」が55.6%で、最も割合が高い。次いで、「温泉」が38.9%、「秋の紅葉」が30.6%となった。これらの3項目には、留学生の国籍を問わず回答が多く集まっており、県内の自然と温泉は、世界各国にアピールできる有力な観光資源であるようだ。
 また、温泉について、「雪景色があると一層望ましい」という記述が複数みられた。観光の弱点となりやすい降雪が、外国人客にとっては、温泉の魅力を高める大事な素材となっている。

b 好きな食べ物(2項目複数回答)
 本県特産品の代表格である「米」が45.4%と、最も高い支持を集めた。また、「稲庭うどん」は24.1%、「きりたんぽ」と「清酒」がともに23.1%、「ババヘラアイス」が22.2%となった。
 米と稲庭うどん、清酒の3品は、いずれの国籍の回答者にも好まれている。きりたんぽはアメリカ出身の回答者に、ババヘラアイスは欧米出身者に人気が高い。一方、「漬け物」と「しょっつる鍋」はともに5.6%で、残念ながら、県内で伝統的に食されてきた発酵食品の味わいは、外国人には伝わりづらいのかもしれない。

c 好きな祭りなど(2項目複数回答)
 好きな祭りなどでは、「花火大会」が68.2%、「秋田竿燈まつり」が49.5%と、夜空を彩る光の祭典が高い人気を集めた。
 国籍別では、「なまはげ」は欧米人の回答者(15.0%)に、「かまくら」と「盆踊り大会」は中国人回答者(ともに6.5%)に好まれている。

(3) 母国に紹介したい県内観光資源や食べ物、祭りなどについて(3項目複数回答)
 外国人客の嗜好を把握するため、回答者が家族や母国の友人に紹介したい県内の観光資源や食べ物などはどのようなものかを質問した(選択項目は、前設問(2)a~cのとおり)。
 「花火大会」が41.3%で、次いで、「温泉」(35.6%)と「山・海・滝・湖など自然」(33.7%)が3割台、「秋田竿燈まつり」(28.8%)と「米」(24.0%)が2割台となった。回答者自身が好む項目が多く挙がり、なかでも、自然や祭りなど本県を訪れなくては体験できない観光資源が上位に並んだ。

(4)県内観光地・観光施設について
a 観光地
 県内の主な観光地10か所について、訪れた経験の有無を尋ねたところ、「角館」(51.8%)が半数を超えた。次いで、「田沢湖」(42.7%)、「男鹿半島」(40.9%)、「鳥海山」(29.1%)、「十和田湖」(20.9%)となっている。
 これらの観光地を訪れたことのある回答者に、利用した交通機関を質問したところ、「象潟」を除いて、いずれも「車」が高い割合となった。
 観光地を訪れた際の満足度については、全観光地で5割を超えており、特に、「十和田湖」(82.6%)と「角館」(80.7%)、「男鹿半島」(80.0%)で8割超となる高い数字となった。

b 観光施設
 観光施設では、訪れた経験のある回答者は少なく、最も訪問割合の高い「男鹿水族館GAO」でも27.3%、次いで、「秋田ふるさと村」が22.7%となった。
 利用交通機関では、「秋田ふるさと村」で「バス」(40.0%)が最も多く利用された以外は、観光地同様に、主に「車」が選択された。
 満足度をみると、「横手市増田まんが美術館」では、訪問したことのある回答者こそ7名と少ないものの、高い満足度(71.4%)となった。
 観光地と比べて、観光施設の訪問頻度並びに満足度が低いが、これは展示内容だけでなく、施設までのアクセスや施設内の外国語表記の有無など、複合的な要因によるものと考えられる。

(5) 県内観光をした際の良かったことや困ったこと、不便だったこと
 アクセスやマナーなど県内観光のソフト面にについて質問したところ、印象の良かった項目として、「マナー」(97.9%)と「食事」(92.6%)が抜群の高評価を集めた。回答者は、観光業に携わる人たちだけでなく、県民も含めて本県の人々は礼儀正しく親切であるとの印象を受けたようだ。また、食事は郷土料理を含めいずれも美味しいと、各国出身者が感じている。
 一方、言葉の面では「良くなかった」が25.0%となった。「観光施設で、日本語をゆっくり話してもらって、分かりやすかった」という記述もみられたが、「英語での県内観光情報が不足している」、「方言の聞き取りが困難」などの不満が寄せられた。また、アクセスについても、45.3%が不便を感じたと回答している。具体的には、「県内の交通手段が限られており、車に頼らざるを得ない」、「公共交通機関によるアクセス方法を英語で調べることが難しい」などである。
 これらの回答を踏まえて、外国人が県内観光をより楽しむためには、言語面とアクセス面の改善が必要であることが明らかとなった。言語については、アジア出身者からも「まずは英語を」との希望が強く、観光地・観光施設のホームページやパンフレット、施設内表示などの英語化や、英語対応のイヤホンガイドの用意、従業員の英会話能力の向上を望む声が多く上がった。また、アクセス面では、電車やバスの増便希望のほか、英語で記された地図を増やしてほしい、観光施設など目的地までの行き方ではきめ細やかな案内がほしいとの意見もみられた。

4 まとめ

 本調査から、外国人観光客には、県内の花火大会や竿燈まつりなどの祭事や、温泉、自然などが好まれることがわかった。しかしながら、海外での本県の知名度は低く、観光資源が誘客に結び付いていない。情報発信ツールのほか、商談会などの機会を活かして、諸外国に向けて本県のPRを強化することが重要となる。
 また、県民のホスピタリティや食事が高評価を得た一方で、アクセスの不便さや英語対応が不十分との指摘がされた。県内観光業における英語力の向上は急務であり、アクセス面でも外国人客に分かりやすいよう改善が求められる。
 現在、県内の外国人客対応には、観光地・観光施設によりバラつきがみられるが、今後さらに各観光地独自の魅力をアピールしながら、外国人客の視点に立って満足度を高める努力を個別にキメ細かく積み上げていく必要があろう。
 いずれ、県が観光産業の振興策として、外国人客の誘客にも力を注いでいるなかにあって、外国人客受け入れ増強に向けた現場(各観光地・観光施設)の本気度が、今、問われているのではないだろうか。

(相沢 陽子)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp