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機関誌「あきた経済」

秋田県の交通事情

 昨年12月に青森新幹線が全線開業し、産業活性化への新たな基盤として沿線地域の期待を集めている。本県でも、フル規格ではないものの新幹線運行が平成9年にスタートし、以後、秋田自動車道全線や長距離フェリーも相次ぎ開業する等、新たな交通基盤の整備は着実に進んできている。しかし、その充実度合の進捗の割に県内経済が底上げされた様子には若干欠け、また一方で、鉄道在来線や乗合いバスなど地域の生活交通インフラには、乗客の減少から存続の危ぶまれる路線も散見される。今後の交通整備は、従来のインフラ面に加えて、本来目的の一つであるそれを活用した地域の産業経済振興面に、より重点を置いて計画を進めるべき段階となっている。

1 秋田県の交通基盤

 秋田県では、21世紀初めにおける交通手段の体系的整備を図る趣旨から、平成3年(1991年)に「秋田県総合交通計画」を策定して、様々な分野の事業取組を進めてきた。その結果、平成9年には秋田新幹線と秋田自動車道が全線開業し、翌10年には大館能代空港が開港、11年には国内長距離フェリーが就航、さらに13年には国際定期航空路線(ソウル便)がスタートする等々、新たな高速交通基盤が相次いで整ってきた。その後も19年には、日本海沿岸東北自動車道や東北中央自動車道がそれぞれ二ツ井、仁賀保、雄勝まで延伸するとともに、一部は現在もその先への工事が続けられるなど、引き続き新時代の交通体系充実を目指した事業が、鋭意進められている。
 こうした行政や産業界の尽力により、本県の新たな交通インフラは全国と比べてそれほど遜色ないレベルに達したが、しかし、一方では従来からの地域交通基盤である秋田内陸線や由利高原鉄道など第三セクター鉄道が、利用者の減少から厳しい経営を強いられている。また、乗合バス等の公共交通機関も、同様、乗客減で路線維持が難しい状況に陥り、公共的使命と採算確保の間で経営が揺れている。
 因みに、新交通基盤の顔が概ね出そろった平成11年以降、各機関の種類ごとに10年間の利用者数等の推移から、本県交通基盤の全体像を眺めてみると、次のような特徴点が浮かび上がる。
① 高速道路と秋田港の利用が、順調に増加している。また、景気悪化から足元では減少傾向に転じているものの、秋田空港や秋田新幹線の利用者数も、暫らく拡大基調にあった。
② 大館能代空港、鉄道在来線、路線バス等の利用者減少が顕著である。
 観点を変えれば、以上については一部例外があるにしても、県内外を結ぶ新しい交通基盤が概ね高い利用水準となっている半面で、地域のいわゆる生活基盤交通は、趨勢的な弱体化が進んでいる状況と、まとめ直すことができる。これは、県経済の対外的な結びつきが国内外を問わず近年広範に拡大しつつある一方で、各々の地域内では人口減少が止まらず圏勢が縮小し続けている、という秋田県の地域経済全体の動きと、大きく連動した結果であろう。そうした様子は、以下に述べる各々の現況からも窺える。

2 各交通基盤の現況

(1)秋田港
 秋田港では、対岸諸国を主な相手先に貿易取扱量が順調に拡大しつつある。韓国・釜山港をハブ港とする海外定期航路は週7便体制に増加するとともに、国際コンテナ取扱量も仙台塩釜港に次ぐ東北2番目となっている。また、先般の東日本大地震で被災した太平洋岸主要港の機能代替という役割も含めて、この4月には既存航路の一部が上海まで延伸された。
 他方、シーアンドレール構想に基づくロシア定期航路については、積み荷量の安定確保に向けて努力している最中で、残念ながら現段階では開設の具体的目処がたっていない。県や産業界は、従来からポートセールスや港湾設備の増強等に努めてきたことに加え、最近は国が計画する「日本海側拠点港(*1)」の指定獲得を目指して一段の環境整備に注力しているところでもあり、それらを梃子に早晩スタートに漕ぎ着けられるものと期待される。何れ、発展著しい東アジア諸国と直に向い合い、しかも東北一円から集荷可能な好ポジションにある秋田港は、今後とも一層の利用伸張が見込めるであろう。
 また、国内長距離フェリー(週5便)に関しても、利用は旅客・貨物とも順調に推移してきたが、21年に高速道路の割引制度が始められた頃から、若干落込みの動きが出ている。このため県環日本海交流推進協議会等が運賃の割引サービスを行い、利用者数の維持に努めているところである。(*1)中国・ロシアの対岸貿易の核となる港を指定して、国の重点投資により整備等を進める国交省の計画

(2)高速道路
 秋田県は、一世帯当たり自家用車保有台数が多く、また輸送に自動車を利用する割合も、全国に比べてかなり高い状況になっている(*2)。これは、広い県土に交通不便な山間地域が散在することや、産業面での地理的なハンディを高速道路等の整備による交通の利便改善で補っている事情によるものと思われるが、そうしたことで、高速道路の利用もその整備率進捗とともに増加傾向をたどっている。
 折しも民主党マニフェストの主要政策の一つである高速道路無料化は、震災復興資金捻出の必要もあり急遽見直されることとなったが、上記のような背景を持つ本県では、もともと無料化よりも未開通区間の早期整備を求める声が強く出されていた経緯にある。
 具体的には事業未着手の3か所(*3)がこれに該当し、現状では、その部分が今後もネットワークの途切れた区間として残ることとなる。そのうち「二ツ井白神―あきた北空港」間は、一部既存国道を共用する形で建設する方向が検討されているが、丁度、今回の大震災にともなう混乱で、国の基幹交通ルートが日本海側にも必須なことが再確認されたことの他、対岸貿易拡大による産業振興を展望する本県では、県内外を網羅する高速物流ネットワークを整える必要もあること等から、高速道路の整備が一層重要な課題として対応が急がれている。(*2)本県1世帯当たり保有台数は1.94台(全国平均1.47台:東北運輸局資料:21年度末)、輸送に自動車を利用する割合は本県の場合旅客輸送で96.6%(全国72.3%)、貨物輸送で90.5%(全国84.1%:国交省旅客貨物流動調査:17年度)、(*3)二ツ井白神IC~あきた北空港IC、象潟以南、雄勝こまち以南

(3)空港
 秋田空港は、夜間駐機開始による便数増や秋田空港東線供用によるアクセス改善等の利便向上を背景に、近年まで年間120万人から130万人程度の、安定した利用客数を確保してきた。しかし、平成19年以降はやや減少の方向に転じている。同空港は、国内線のうち羽田便利用客が7割前後と、他の地方空港同様、首都圏との往来に需要が集中しているが、近頃、秋田・首都圏間の交通手段選択肢としては結果的に新幹線に遅れをとったこと、また、景気悪化から乗客数の5割強を占めるビジネス利用が沈滞気味となったこと等で、そのドル箱部分で利用客の減少していることが、このところの頭打ちの大きな要因となっている。
 他方、今年就航10周年を迎えるソウル便は、昨年の利用者数が4万人を超え、搭乗率は72.4%と何れも過去最高を記録した。ただし、これはドラマのロケ地効果の恩恵によるところが大きく、効果が一巡した年後半には、以前の低空飛行に戻っている。ソウル便については、搭乗率の低迷からもともと着陸料の減免やターミナルビル使用料の補助等、様々な優遇策を講じて路線を維持してきた一面もあり、先行きの利用客数確保に改めて懸念が持たれている。
 大館能代空港も、同様、深刻な利用状況が続いている。年間利用者数は11万人余りで東北の空港の中では最少、また搭乗率も53.5%(平成22年)と低く、このため東京、大阪への2つの定期便のうち、この1月には大阪便が廃止となった。県や周辺の自治体、産業界は様々な工夫を凝らして需要喚起に努めているが、県内2番目の空港でもともと集客力に欠ける憾みがあるうえ、アクセスや運行便数など利便性の面でも問題が指摘されること等から、態勢挽回は思うに任せない模様である。

(4)鉄道・バス
 秋田新幹線は、利用客数がここ2、3年こそ減少気味ながら、趨勢としては年間220万人前後の高い水準を保ちつづけている。それに比べて鉄道在来線の落込みが顕著で、沿線の過疎化・人口減少に加え、少子化に伴う通学生徒数の減少等による乗客減から、とりわけ秋田内陸線や由利高原鉄道など三セク鉄道の運営は、年々深刻の度を増している。
 実際、両社の経営赤字は毎年巨額(*4)に上って路線存続の危機が言われているが、地域には欠かせない生活基盤でもあるため周辺自治体による財政投入が毎年行われ、事業維持されている状況にある。もとより企業努力のほか地域住民の支援を得ての再生計画、需要喚起策等も懸命に重ねられているものの、地域経済全体の縮小が続く中での建て直しは、容易には進まないのが実情である。こうした利用者の減少傾向は、JR在来線についても大きな変わりはない状況(*5)だが、ただし、そうした環境下にあって、五能線「リゾートしらかみ号」の利用者数が22年度は開業以来最高を記録する見込みとなっていることは、ほんの1例ながら明るいニュースである。
 他方、地域住民の生活の足となるバスに関しても、マイカー普及や周辺地域の人口減少を背景に利用者数は昭和44年度のピーク(1億990万人)から減少の一途にあり、平成21年度は1,498万人と、その7分の1にまで落ち込んでいる。路線についてもその8割が赤字営業を余儀なくされており、近頃は高速バスの運行収入が幾分下支えするようになっているとはいえ、生活路線の維持には地元市町村の補助が、恒常的に不可欠な状況である(*6)。(*4)秋田内陸線の22年度収支は、2億5,000万円の赤字となる見込み、また、由利高原鉄道も7,400万円の赤字見込み、(*5)JR各線の営業係数(100円の収入を得るためにどれだけの経費を要するかを示す指標)では、北上線、花輪線、五能線等が300台で20年度の全国ワースト20に入る模様(週刊東洋経済2011.3.5号)、(*6)平成19年度は、国、県、市町村合わせて約14億円を補助している(20年7月「秋田県総合交通ビジョン」)

3 最後に

 以上、各交通基盤の現況をたどってきたが、改めて全体傾向を眺めると、交通機関それぞれの盛衰について方向を分けている要素は、時代趨勢の他には、やはり結びついている地域の産業経済活動の強弱に収斂されるように思われる。
 いうまでもなく、交通インフラは地元の産業とともに地域を支える車の両輪であり、しかも、互いに各々の発展を促しあう関係にもある。従って、新たな交通基盤について整備に努めてきた本県としては、もともと長期構想にも謳っていたとおり、今後はそれらの成果を産業経済振興面へ活かす施策に、より重点を移して取組む段階といえよう。
 他方、衰退傾向にある地域交通機関についても、実需の伴った利用増は、本来的にはやはり地域活性化、産業経済の振興と一体でこそ可能になるものと思われる。とはいえ、それが必ずしも容易に進む環境でもないため、近頃はやや交通手段の維持のみ目的化した対応となっている嫌いがある。実際、イベントや利用者への補助金支給等による需要喚起策がしばしば実施されるが、それは一時的な効果はあっても、根本的な改善手段としては限界があることもまた事実であろう。従って、乗客減に悩む鉄道在来線、バス、その他にしても、各々利用増進のためには当該地域の活性化や産業振興計画と一体で施策を重ねる努力が、例え時間を要するにしても本来部分で不可欠なことと思われる。

(高橋正毅)

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