トップ機関誌「あきた経済」トップ本県野菜農業の現状

機関誌「あきた経済」

本県野菜農業の現状

 「農業県」を標榜する本県ではあるが、農業産出額では東北最下位、全国でも中位であり、その実態は「稲作県」ともいえる。コメ偏重からの脱却は本県農業の長年の課題ではあるが、それでは転作作物の中心となる野菜作の現状はどのようになっているのだろうか。本稿では、生産、流通とともに、県の施策や生産者組織の動きなどもあわせて、本県野菜農業の現状について概観した。

1 はじめに

 本県の農産物の作付面積を構成割合でみると、最も特徴的なのが、稲の占める割合が高いことである。平成21年で70.5%と東北を15ポイント、全国を32ポイントも上回っている。また、東北、全国とも15年比で稲の占める割合が、横這い程度の動きなのに対し、本県では3.9ポイント増加している。一方で野菜はわずかに減少している。
 本県ではかねてから稲作偏重に問題があるとして、稲作から野菜等他品種への転換や複合経営を指向しているが、作付面積の構成からは、それが思うように進んでいない姿が見て取れる。

2 本県の現状

(1) 野菜農業の概要
 県では、本県の気象・立地を活かし、市場競争力のある野菜産地の地位を確保するため、これまで“今こそチャレンジ”農業夢プラン応援事業等により、省力機械の導入やパイプハウス等施設化の推進を図ってきた。また、「秋田の顔」となりうるアスパラガス、ねぎ、ほうれんそうのメジャー3品目、高品質なブランド推進6品目を重点的に推進するとともに、これらを先導役として野菜生産全体の底上げを図っている。(県「農林水産業及び農山漁村に関する年次報告」より)

(2)産出額と作付面積
 平成元年からの農業産出額の推移をみると、産出額、シェア(東北、全国)ともに減少傾向が続いているが、ここ数年は横這い圏内で推移している。平成21年の本県農業産出額は1,759億円で全国20位、東北では最下位に位置している。うちコメが1,019億円(構成割合57.9%)と全国3位であるのに対し、野菜は275億円で全国26位だが、東北では18年までの最下位から脱して19年以降は4位に浮上している。産出額合計が元年当時の6割程度の水準まで減少している中では、野菜産出額は7.7%減と9割超の水準を維持しており、東北シェア、全国シェアともに横這い水準で推移するなど、本県農業に占める野菜のウェイトは増えてきている。
 一方、本県の野菜作付面積は平成2年(12,800ha)をピークに概ね減少傾向にある。メジャー3品目、ブランド推進6品目の中では、ねぎとえだまめの作付面積が伸びており、特にえだまめは近年大幅に増加している。アスパラガスは19年まで増加傾向にあったが、20年からは減少している。
 野菜の作付けが伸び悩んでいる背景には、総体的に農業従事者が減少していることに加え、稲作に比べ栽培技術が難しいとされること、高齢者にとってはキャベツ等重量野菜での重労働が敬遠されること、メロン等果菜類では短期に労働時間が集中することなどがあげられる。

(3)品目別の特徴
 平成21年の産出額が全国の10位以内となっている主要野菜は、えだまめ(産出額14億円、全国シェア3.8%、9位)、やまのいも(同5億円、1.2%、9位)、すいか(同18億円、3.3%、10位)の3品目のみである。
 メジャー品目(ねぎ、アスパラガス、ほうれんそう)は順調に産地拡大が進んでおり、アスパラガスやほうれんそうでは通年出荷体制も整いつつある。特に、アスパラガスは産出額上位統計では調査対象外だが、ここ数年、作付面積が減少に転じている中で全国3位、出荷量は同6位と全国上位を維持している。
 また、近年、「あきた香り五葉(えだまめ)」や「あきた夏丸(すいか)」などの本県オリジナルの品種が開発され、市場から高い評価を得、産地拡大が進められている。
 メロンは本県のブランド推進品目に指定されてはいるが、作付面積、出荷量などが少なく、国の基準を満たしていないため、国の統計調査対象から外れており、ここ2年の作付面積は不明である。しかし、JAでの系統販売にかかわる作付面積推移によると減少傾向が続いている。
 県内に野菜の1億円産地は、12品目、延べ26産地ある。品目・地域別では、きゅうり、トマト、アスパラガスが全県的に広がり、県北部はみょうが、ねぎ、とんぶり、山うど、中央部はメロン、ミニトマト、県南部には主力のすいかの他、えだまめ、ほうれんそうとなっている。

(4)流通の特徴
 総務省「家計調査」によると、平成22年の2人以上世帯での年間生鮮野菜購入量は、都道府県庁所在市では秋田市が9位と全国トップクラスである。
 市民の野菜購入量の多さに引き換え、秋田市中央卸売市場での県産野菜の取扱比率は金額ベースで2割程度、数量ベースでは1割程度と圧倒的に他県産が多くなっている。22年の産地別取扱比率をみても、取扱金額では本県産がトップではあるが、数量ベースでは千葉県産、青森県産の後塵を拝し、茨城県産にも迫られている。
 最近は食品スーパー等量販店でも新鮮・安全を前面に出した地場産品コーナーを拡充したり、県内各地の産直施設が売り上げを伸ばしているなど、市場を通さない流通も増えていることから、一概には言えないものの、流通段階で小売には地場産野菜が少なく、県外産もしくは輸入野菜が多く出回っていることがうかがわれる。
 このことは、農業産出額や作付面積の推移と合わせみると、本県野菜が大市場である首都圏など県外へ打って出ているというよりは、県外産地に浸食されていると考えられる。
 しかし、一方では、県産野菜流通に関する前向きな動きもみられる。
 県が平成9年度から調査している学校給食における県内産野菜の使用率は、国が目標とする30%をクリアすべく取り組んできた結果、21年度(32.2%)に初めて達成した。
 学校栄養士と生産者が協力しながら地域食材を活用するなどの活動の成果と思われる。しかし、なお、最高の67.4%(小坂町)から10%台まで市町村によるばらつきや、品目によるばらつきも残っている。そこで、県では、食育を通した地元産野菜への子どもたちの親しみを増すべく、農業関係者との連携を深めながら、更なる使用率向上を目指している。
 県産野菜の地元消費とともに、販路拡大に向けて、県が東京事務所に担当職員を配置して首都圏での県産野菜の売り込みを図っているほか、秋田市が地場産野菜7品目(※1)を「秋田七野(ななや)」として重点推進品目にあげ、地域特産品等販売促進事業を展開するなど、各市町村でも独自の販売拡大策を展開している。
 また、野菜のソムリエ資格を持つ社員を販売担当者とする産直施設が売り上げを拡大するなど、販売経路は多岐にわたってきている。
(※1)こまつな、ほうれんそう、チンゲンサイ、ねぎ、ブロッコリー、しゅんぎく、アスパラガス

(5)植物工場
 近年、企業等が工場内で野菜を水耕栽培する植物工場が話題となっている。季節や、天候に影響されることなく、通年で安定的な収穫ができるほか、地域や土地を選ばず、栽培条件を工夫することで高付加価値野菜を生産できる等の利点があるものの、初期の設備投資が多額であるなど、参入時のハードルは高いといわれる。
 しかし、本県でも、電子部品・機械メーカーや薬局で、この植物工場に取り組む事例が現れてきている。いずれも秋田県立大学の協力や指導を得て、低カリウム野菜などの高付加価値野菜の生産に挑戦している。
 こうした動きを後押しすべく、県でも23年度から植物工場の低コスト化のために、パワー半導体や照明へのLED導入などの実証研究に取り組むとしている。

3 「えだまめ日本一」への取り組み

 県では、コメ一辺倒の農業構造から脱却を図るべく種々の施策を講じてきたが、その中で、転作作物もしくは複合化の対象となる野菜については、メジャー作物3品目、その他品目で将来の成長が有望と見込まれる6品目をブランド推進品目として指定し、平成11年以降、特に生産振興を図ることとしてきた。えだまめやねぎで成果を上げているなど、それなりの効果は認められるものの、本県の農業構造を抜本的に変え、野菜生産を飛躍的に高めるまでには至っていない。
 そこで、県では、「えだまめをコメに次ぐ“秋田の顔”として、県産野菜のけん引役」にすべく「えだまめ日本一産地躍進プロジェクト」を展開している。えだまめを全国トップに押し上げる成功事例を作り、本県野菜振興のけん引役とするものである。
 コメ以外で、全国区と呼べる作物がないことから、野菜の中で全国区になりうる品目として、出荷量等で全国一に最も近いえだまめで日本一を目指す計画である。県農業試験場で育成された品種「秋田さやか」や「秋田香り五葉」は、食味の評価が高く、また現在育成中の新品種は、9月の品薄期の出荷が可能であることから、良食味のえだまめを7月から10月まで切れ目なく供給できることをアピールしていく。
 県、JA等関係機関が手を携えて、オール秋田でえだまめの生産販売に取り組み、20年産で作付面積969ha、出荷量2,880トンを26年には1,469ha(500ha増)、5,722トン(約2,800トン増)へ飛躍的に拡大することで、全国トップブランド産地を目指すとともに、将来的な8月、9月の首都圏えだまめ(青豆)シェア50%獲得(現在は東京都卸売市場で8月21%、9月26%)に向けプロモーション活動に取り組むこととしている。
 しかし、えだまめについては多くが転作作物として水田を利用して作られているため、排水の悪さが生産の課題となっている。そのため県では、22年度に造成した「農林漁業振興臨時対策基金」を利用して、「もみ殻暗きょ」(※2)の導入を支援し、排水面の課題をなくすと同時に、増収と品質の向上を図ることとしている。同時に、同基金からは販売戦略等のソフト事業や機械化に向けての補助事業なども計画している。
(※2)水はけを良くするために農地の地下に整備する排水路で、もみ殻を埋設することにより、水はけをより改善し作物の成長を促す。

4 秋田農村問題研究会の取り組み

 秋田農村問題研究会(以下、農問研)は農業生産者や農業団体、農業問題研究者、行政関係者等が参加し、昭和49年3月に設立した団体で、以来37年にわたり本県の農業および農村の問題について学習・交流活動を重ねてきている。設立当初から「稲単作の克服」と「自主的複合経営の確立」を目指した活動が基本となっている。この農問研が平成20年6月から2年間を費やして「秋田県の野菜振興と稲作農家が販売野菜を導入する動機づけに関する調査」を行い、その結果を「秋田県の野菜振興と野菜生産農家を増やすために(提言)~実態調査から見えてきた課題の克服に向けて~」と題してまとめている。
 本調査・提言は野菜生産農家29戸およびJAグループへの聞き取りや、実地調査を行ったうえでの労作である。現状を「産地規模、個別経営の双方で零細性を持ち、多品目生産でありながら、根菜類はじめ重量野菜の商品生産が弱い」と分析したうえで、多岐にわたる提言を行っている。
 提言の主なものは次の3点である。
①野菜生産農家を増やすためには、認定農業者や集落営農組織だけでなく、女性や若者を含めた多様な担い手の育成が必要である。
②現在の野菜生産を維持・発展させるためには、施設更新に関わる補助事業の強化や、価格補償制度の拡充が必要である。
③野菜振興のためには、消費者も交えた、生産者、JAグループ、行政、研究機関、流通・加工業者などを総動員した協働体制(プラットフォーム、協議会)の構築が必要である。

5 まとめ

 本県の野菜農業は、稲作と同様に高齢化が進んでいるほか、生産に手間暇がかかることで、後継者不足も深刻である。このため、機械導入費用等のコストを吸収できず、このことが、野菜作付けが増加しない一因ともなっている。加えて、他県産野菜との競合などもあり、本県野菜農業を取り巻く環境は厳しい。
 しかし、本県には、県立大学生物資源科学部や県農林水産技術センター、県総合食品研究所など優れた研究機関が多く、また、農問研のように真剣に本県野菜農業の現状を変えようとしている組織もある。県でも、「農林漁業振興臨時対策基金」を創設し、農家への所得確保策、経営体質強化などに当たっているほか、東京事務所に担当者を配置し、首都圏量販店や外食産業などへのマッチングや加工・業務用野菜の取引拡大に努め、成果が現れてきている。
 さらに、県内各地域では、生産量は多くはないものの、平良カブ(湯沢市雄勝地域)、松館しぼり大根(鹿角市)、山内ニンジン(横手市)、関口ナス(湯沢市)など古くから伝わる伝統野菜も豊富に存在する。全国トップレベルの大規模産地を目指す一方、小さくても個性豊かな産地を県内各地に育成し、コメのみに依存しない収益性の高い農業への改革を加速することも重要である。
 生産農家のみならず、行政やJA、農問研のような民間組織、卸売市場から小売業者までの流通関係者が一体となって取り組むならば、「えだまめ日本一」も夢ではないだろうし、これをてこに秋田産野菜のブランド化、担い手の確保、集約化を進めることで、作付面積が減少している中でも産出額は横這いを維持、健闘している本県野菜の更なる攻勢も可能と考える。

(佐々木 正)

あきた経済

刊行物

お問い合わせ先
〒010-8655
 秋田市山王3丁目2番1号
 秋田銀行本店内
 TEL:018-863-5561
 FAX:018-863-5580
 MAIL:info@akitakeizai.or.jp