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“動物にやさしい秋田”を目指して

 戌(イヌ)年の本年、平昌(ピョンチャン)冬季五輪女子フィギュアスケートの金メダリスト、アリーナ・ザギトワ選手(ロシア)への秋田犬贈呈をきっかけに、秋田犬人気が急上昇し、ブームとなっている。
 県内でも秋田犬に触れ合えるスポットが急増し、地元はもちろん県外客や外国人客から喜ばれている。空港ほか、秋田犬関連グッズの土産物販売も好調という。
 折しも、毎年9月20日から同月26日は、「動物愛護週間」に当たる。改めて、動物との関わりを通して、命の大切さを再確認し、動物との共生を考える機会としたい。本稿では、拡大するペット関連市場の動向や、動物愛護に向けた本県の取組み等について概観する。

1 犬猫の飼育頭数が子どもの数を上回る

(1)本年5月の「こどもの日」に合わせて総務省が発表した15歳未満の子どもの推計人口は、4月1日現在1,553万人で、前年の1,570万人を17万人下回り、1982年(昭和57年)から37年連続で減少し、過去最低となった。都道府県別で子どもの人口が増えたのは、東京都のみであった。
なお、総人口に占める子どもの割合では、沖縄県が17.1%と最も高く、次いで滋賀県が14.1%、佐賀県が13.7%と続く。秋田県は10.1%と全国で最も低く、次いで青森県が11.0%となっている。
(2)一方、一般社団法人ペットフード協会の調査によると、平成29年における全国の犬と猫の推計飼育頭数は、犬が892万頭、猫が952万6,000頭で、合計1,844万6,000頭となり、前述の15歳未満の子どもの数1,553万人をはるかに上回る逆転現象が起こっている。
(3)このうち、時系列でみると、犬の飼育頭数は近年減少傾向にあるものの、猫の飼育頭数はほぼ横ばいから幾分増加傾向で推移しており、29年調査では猫の飼育頭数がついに犬の飼育頭数を上回ったとされる。
(4)ペット好きの間では、昔から犬派と猫派に分かれてそれぞれがその魅力や愛らしさを主張し合ってきたが、近年は猫ブームが到来していて、飼育頭数で猫が犬を逆転するのは時間の問題とみられていた。
(5)その理由としては、一人暮らし世帯の増加や飼い主の高齢化にともなって、散歩などの世話が必要な犬の飼育が減って、散歩不要で相対的に手間のかからない猫の飼育割合が高まっているのでないかと言われている。
(6)また、一般社団法人ペットフード協会の調査では、医療費などを含む飼育にかかる支出総額が、1か月当たり、犬が10,818円、猫が7,475円と、年間で4万円以上の差が出ると試算されており、家計的にも猫の方が飼いやすくなっているのでないかと考えられる。
(7)こうしてみると、少子化や高齢化、消費の伸び悩みなどの社会情勢が、ペットの飼育事情にも大きく関連していると言える。
(8)なお、厚生労働省が公表している都道府県別の犬の登録頭数をみると、秋田県の犬の登録頭数は平成28年度41,530頭で、人口1千人当たりの登録頭数でみると、全国47都道府県中44位と少ない。(都道府県別の猫の飼育頭数は不明)

2 ペットビジネスの成長性

(1)総務省の家計調査(二人以上の世帯)で1世帯当たりの年間支出金額の推移をみると、平成14年から29年にかけて、消費支出金額は305,953円から283,027円へ7.5%減少しているが、うちペット関連支出は、14,140円から21,156円と、この15年間で1.5倍に増加している。ペット関連支出の内訳では、ペットフードと医療費がそれぞれ3割以上を占める。
(2)次に、平成29年における二人以上の世帯の1世帯当たりのペット関連支出の年間金額を、世帯主の年齢階級別にみると、世帯主が60~69歳の世帯が30,766円と最も多く、次いで50~59歳世帯の28,802円、40~49歳世帯の22,270円の順となり、30歳未満の世帯が最も少なく7,513円となっているなど、中高年の世帯で多くなっている。
(3)ペットフードについて、農林水産省の「ペットフード産業実態調査」(資料:一般社団法人ペットフード協会)により供給側の統計からみると、ペットフード産業全体の市場規模は平成15年度の2,435億1,900万円から28年度は2,856億700万円へと約1.2倍に拡大している。
(4)なお、ペット関連市場は、主にペットフード、ペット用品、その他ペット関連産業に大別され、その他ペット関連産業には、生体販売、ペット医療、ぺット美容室、ペット保険、ペットホテルなどの関連サービスが含まれるが、株式会社矢野経済研究所の調査によると、日本のペット関連市場全体の市場規模(小売金額ベース)は、平成28年度が前年度比1.6%増の1兆4,983億円で、29年度は同1.0%増の1兆5,135億円と推定されている。減少一途の子どもの数をもはやペットの飼育頭数が上回る現状を考えると、ペット関連市場の拡大、ペットビジネスの成長性はまだ十分余地があると言える。

3 ペットブームの裏側で

(1)一般に、ペットを飼う効用としては、情緒面の安定や成長、ストレス解消や癒し、家族間のコミュニケーション増加、生活のはりあい、などが挙げられる。
(2)しかし一方では、飼い主側の一方的な都合により、保健所送りになり殺処分されてしまう不幸な犬や猫が後を絶たない現状がある。ちなみに
平成12年以降、行政による殺処分数は犬よりも猫の方が圧倒的に多くなっている。
(3)環境省の統計資料「犬・猫の引取り及び負傷動物の収容状況」によると、平成28年度の全国の犬の引取り数は41,175頭、猫は72,624頭で、合計113,799頭にも及ぶ。このうち、飼い主へ返還されたり他に譲渡された個体数は、犬が30,500頭、猫が26,886頭の合計57,386頭であるが、やむなく殺処分された個体数は、犬が10,424頭、猫が45,574頭の合計55,998頭にものぼる。
 このうち、秋田県の引取り数は、犬が156頭、猫が520頭の合計676頭で、返還・譲渡数は犬が88頭、猫が95頭の合計183頭、殺処分数は犬が71頭、猫が431頭の合計502頭となっている。
(4)先進国の例では、例えばスイスでは、適性テストに合格し免許を取得しないとペットを飼えないという動物保護法が制定されているそうである。また、世界一のペット先進国と言われるドイツでは、ペット税を課すなどの様々なペットに関する法律が制定されていて、飼い主に捨てられた犬や猫を沢山の施設で保護しながら新しい飼い主を探し、仮に新しい飼い主が見つからなくても、寿命までしっかりと保護施設で面倒をみる仕組みができており、殺処分はゼロだとも言われている。他にも、オーストリア、オランダ、フィンランドなどヨーロッパ圏の国々では、ペット税が導入されており、街中に犬のフン専用のゴミ箱が設置されているなどペットの飼育環境や制度が整備されている。
(5)日本でも、昭和の時代(昭和30年~57年)には全国2,700市町村で「犬税」が設けられていたものの、徴収できる税額よりも徴収コストの方が高額になることがネックとなって、廃止された経緯にある。先のヨーロッパ諸国のように、制度を整備し定着させることは決して容易ではない。

4 秋田県の取組み

(1)秋田県は、平成9年に「秋田県動物の愛護及び管理に関する条例」を制定し、県民の動物愛護に対する意識の向上を図るとともに、平成20年には「人と動物が調和しつつ共生する社会」の実現に向けて、「秋田県動物愛護管理推進計画(第1次計画。平成20年度~29年度)」を策定し、動物愛護思想の啓発、犬猫の終生飼養の指導、保護された犬猫の譲渡推進などに取り組んできた。これらの取組みにより、犬の殺処分は従前と比べ大幅に減少してきているものの、猫については未だ相当数の殺処分が行われている現状に鑑み、「犬猫の殺処分ゼロ」に向け、もう一段の取組強化を図ることとし、28年3月に「第2次秋田県動物愛護管理推進計画」(第2次計画。平成28~37年度)を策定している。
(2)この計画の一環として、秋田県は、「動物にやさしい秋田」を実現する拠点として、平成31年度に約8億円をかけて、秋田空港近くの県立中央公園に「動物愛護センター」(仮称)を建設し、行政や動物愛護団体、ボランティア、獣医師会などの多様な主体による動物愛護の総合的な取組みを推進していく計画としている。
(3)このような、人だけでなく、愛すべきパートナーであるペットにとっても住みやすい“まちづくり”もまた、秋田県が標榜する「高質な田舎」としての望ましい方向性なのではないだろうか。「動物にやさしい秋田」の実現を目指す、こうした取組みを大いに歓迎したい。
(工藤 修)
あきた経済

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