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経済センサスにみる秋田県の製造業 ━労働生産性の向上から人口減少の抑制を━

 総務省および経済産業省では、平成28年6月に実施した第2回の「経済センサス-活動調査」の結果を昨年から順次公表している。この調査は、日本全国にあるすべての事業所および企業を対象に経済活動の状況を調査する「経済の国勢調査」ともいれるものであり、同一時点で網羅的に把握する我が国唯一の統計調査である。この調査結果を基に全国の指標と比較しながら、秋田県の製造業の現状について概観する。

1 経済センサスとは

 経済センサスは、事業所および企業の経済活動の実態を明らかにし、我が国における包括的な産業構造を明らかにするとともに、事業所・企業を対象とする各種統計調査の実施のための母集団情報を整備することを目的とする調査である。事業所・企業の基本的構造を明らかにする「経済センサス-基礎調査(以下、基礎調査という)」と、事業所・企業の経済活動の状況を明らかにする「経済センサス-活動調査(以下、活動調査という)」の二つから成り立っている。  
 基礎調査は平成21年7月に第1回、26年7月に2回目の調査が実施され、活動調査は24年2月に第1回、28年6月に2回目の調査が実施された。第2回活動調査の結果は昨年から順次更新のうえ公表され、今年各産業別の結果が出揃った。今回はこの第2回活動調査の結果を基に全国の指標と比較しながら秋田県の製造業の現状についてみてみる。なお、経済センサスは原則として5年ごとの調査となることから、時系列推移を分析するためにセンサス実施以外の年次については、毎年実施される工業統計調査の結果をまとめた「秋田県の工業」も併わせて参照した。

2 秋田県の製造業の現状

(1)事業所数および従業者数
 県内の事業所数は平成24年以降毎年減少しており、27年は1,871事業所で14年以降では最少である。従業者数も23年以降毎年減少しており、27年は59,145人で、こちらも14年以降では最少となっている。
 従業者規模別にみると、27年は従業者4~9名の事業所が757事業所で最も多く、全体の40.5%を占めている。また従業者29人以下の事業所が76.3%となっている。
 28年の各都道府県の事業所数、従業者数をみると、秋田県の事業所数は全国38位、従業者数は36位である。28年以前で直近の指標が公表されている26年と比較すると、2年間で従業者数が減少したのは秋田県を含め17都府県あるが、事業所数が減少したのは秋田県のみとなっている。

(2)製造品出荷額等および付加価値額
 秋田県の製造品出荷額等は平成27年は1兆2,152億5,700万円である。前年より増加した年もあるものの、中長期的な傾向でみると19年の1兆6,614億8,100万円をピークに徐々に減少してきており、27年は19年に比べ4,462億2,400万円減少している。また都道府県別製造品出荷額等をみると、全国で43位となっている。
 付加価値額は27年は3,944億6,600万円となっている。18年の5,570億円がピークであり、27年は18年に比べ1,625億3,400万円減少している。都道府県別付加価値額をみると、27年は全国で43位である。
 製造品出荷額等、付加価値額とも26年、27年は増加傾向にあるものの、ピーク時との差は大きく、全国との比較でも下位となっている。

(3)労働生産性(付加価値生産性)について
 労働生産性についてはいくつかのとらえ方があるが、ここでは全国との比較を行うために便宜的に付加価値生産性(付加価値額÷従業者数=1人当たり付加価値額)により概要をみてみる。付加価値生産性は平成18年の1,004万3,000円がピークで、その後増減を繰り返しているが、27年は909万5,000円と14年以降では18年に次いで高い。
 同様の算出方法を都道府県別の指標に当てはめてみると、本件の付加価値生産性は26年は全国で42位、27年は43位となっている。27年の秋田県は、従業者数は全国36位、付加価値額は43位である。従業者数が秋田県より少ないにもかかわらず、付加価値生産性が高いため、県全体の付加価値額が秋田県を上回っているのが青森、奈良、和歌山、徳島、佐賀、長崎、宮崎の7県ある。

(4)産業別の労働生産性
 次に県内の付加価値生産性を業種別にみてみる。「化学」が2,316万円で最も高く、次いで「パルプ・紙」2,022万円、「電子部品・デバイス」1,144万円、「非鉄金属」1,079万円と続く。これらの業種は付加価値額の構成比が従業員の構成比より高いのが特徴である。反対に「食料品」、「繊維」、「家具・装備品」、「プラスチック」などは、従業者の構成比よりも付加価値額の構成比が低く、このことが労働生産性の低下につながっている。
 全国の業種別付加価値生産性をみると、「飲料・飼料」が3,062万円と最も高く、次いで「化学」3,023万円、「情報通信機械」1,767万円、「輸送用機械」1,731万円と続き、県内の業種順位とは異なる状況となっている。業種ごとの付加価値生産性を比較すると、一般に地方は大企業が含まれる全国よりも低くなってしまう。従業者数の違いなど算出対象の違いはあるものの、参考までに県内と全国平均を比較してみると、秋田県が全国平均を上回っている業種は「パルプ・紙」の一業種のみである。付加価値額の構成比が県内で最も高い「電子部品・デバイス」でも全国平均と比較すると227万円低い。

3 まとめ

 地域経済の活性化をはかるためには、県全体の付加価値額を高めていかなければならない。そのためには1人当たり付加価値額の増加、すなわち労働生産性を向上させていく必要がある。
 一般的に労働生産性が高まるほど、企業の収益は増加し、従業者の賃金水準も向上していく傾向にある。県内の学生が首都圏をはじめとする都市部の企業へ就職するのは、県内企業との賃金格差が大きな要因であると思われる。労働生産性を向上させることは賃金水準の向上につながり、県内の企業へ就職する学生も増え、人口減少を抑制することにもなる。このことは、すべての産業に共通して言えることである。県内において製造業の県内総生産に占める割合は13.0%と高く、製造業の労働生産性を向上させることが、県全体の付加価値額向上にもつながる。
 前述のとおり、従業者29人以下の事業所が全体の76.3%を占めるが、付加価値額はわずか16.8%しかない。逆に従業者30人以上の事業所は全体の23.7%であるが、付加価値額は83.2%を占めている。これは全国的にも同じような傾向にあり、従業者数の多い企業ほど労働生産性が高く付加価値額が大きい。
 一概には言えないものの、従業者数が多い事業所ほど経営資源面で余裕がある場合が多く、機械化やICT化も進み、労働生産性が高くなる。逆に、従業者数の少ない企業は設備投資に資金をかける余裕がない場合が多く、労働生産性を向上させるのが難しいものと思われる。
 したがって、大半を占める従業者数29名以下の事業所の労働生産性をどのように向上させていくかが課題となる。企業単独での設備投資やICT化が難しい状況では、同業者間、関連業種間での連携をはかることや、機械設備を互いに貸与しあったり、共同で受注し分割作業をする等の思い切った仕組み作りも必要になってくるのではないだろうか。また最近は、後継者不足による事業承継難も深刻化しているなか、合併やM&Aなどによる規模拡大や事業の効率化も労働生産性向上には有効と考える。
 県では労働生産性向上につながるICT、IoT、AI等の活用による産業振興に取り組んでおり、製造業向けの各種セミナー、研修会の開催の他、補助金等による資金的な助成も行っている。各企業がこのような制度を積極的に活用していくとともに、今後は賃金水準の向上、県内就業者割合の増加、人口減少抑制につなげていくためにも、産官学金が連携して労働生産性向上に取り組んでいくことが必要である。
(岩橋 彰)
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