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アンケート結果(平成30年3月調査)から見た 本県の人手不足の現状

 本県の有効求人倍率は、リーマン・ショック後の平成21年4月から8月までは0.2倍台まで落ち込んでいたが、27年1月に1.01倍となって以降、39か月連続で1倍を超えている。直近の30年3月は過去最高の1.59倍となり、求職者からみると、雇用情勢は大幅に改善したといえる。しかし求人サイドである企業においては、人手不足が生じ、年々深刻さを増している。
 当研究所では、県内企業の人手不足の現状やその要因、人手不足による影響などを把握するため、アンケート調査を実施した。本号では、その結果についてレポートする。

1 はじめに

 当研究所では、毎年3月と9月に、県内事業所を対象にアンケート調査を実施し、3月調査では、「経営上の問題点」について質問している。結果について時系列でみると、「販売量(受注量)の減少」が常態的に大きな問題とされてきたが、近年は「人材不足」の割合が高まっている。
 平成28年の調査から「人材不足」についての回答項目を「人材不足(質の不足)」と「労働力不足(量の不足)」の2つに分類したが、直近30年の調査では、2つの合計が52.7%と半数を超えた。また、「労働力不足(量の不足)」の割合が年を追うごとに高まってきており、直近30年には「人材不足(質の不足)」の割合を逆転していることから、各企業とも量的な労働力の確保が大きな課題となっていることがうかがえる。
 産業別でも、「人材不足(質の不足と量の不足の合計)」が製造業で43.4%、非製造業で60.2%とそれぞれ最も多くなっており、特に非製造業において、人手不足が深刻化していることが分かる結果となった。

2 アンケート結果から

 平成30年3月調査では、特に県内企業の人手不足の状況について調査を行い、不足している職種や業種、その要因、人手不足による影響、人員確保のための対策等についてまとめた。

(1)現在の雇用人員について(29年度下期)
 現在(29年度下期)の雇用人員について尋ねたところ、「不足」していると回答した企業は52.3%で、企業の5割超が人手不足を感じていることが分かった。「適正」は45.7%、「過剰」は2.0%であった。
 業種別にみると、製造業(42.5%)に比べ、非製造業(60.1%)で人手不足感が強くなった。「不足」していると回答した企業割合は、「衣服縫製」(85.7%)で最も高くなり、次いで「観光」(78.6%)、「運輸」、「サービス業」(66.7%)で高くなったほか、「電子部品」(56.3%)、「卸売・小売」(55.6%)、「建設」(50.0%)でも5割以上となった。
 その反面、サービス業においては、「過剰」とした企業割合が10.0%と、全業種中で最も割合が高かった。サービス業の内訳では、生活関連や警備、ビル管理等で「不足」となった一方、情報サービスの一部で「過剰」となった。

(2)雇用人員の見通しについて(30年度上期)
 次に、今後(30年度上期)の見通しについて尋ねたところ、「不足」すると回答した企業は45.7%となり、依然として企業の4割超で人手不足が続くと回答している。「適正」は51.2%、「過剰」は2.3%であった。
 業種別にみると、現在の雇用人員と同様、見通しにおいても、製造業(38.9%)に比べ、非製造業(51.0%)で「不足」を予想する企業割合が高くなった。今後も「不足」すると回答した企業割合は、29年度下期同様に「衣服縫製」(71.4%)で最も高く、次いで「運輸」(61.1%)、「サービス」(56.7%)となった。
 なお、現在「不足」していると回答した134社のうち、見通しについて「適正」水準となると回答した企業は21社にとどまり、依然として「不足」の状態が続くと回答した企業が112社であった。「過剰」になると回答した企業はなかった(無回答1社)。

(3)不足している雇用形態について
 以下の(7)までの質問については、現在人手が「不足」している、もしくは「不足」する見通しであると回答した企業139社に尋ねた。
 「不足」している雇用形態は「正社員」(83.5%)が最も多くなり、製造業で78.4%、非製造業では86.4%となった。業種別では「衣服縫製」において、全ての企業が「正社員」が不足していると回答したほか、多数の業種で最も割合が高くなった。
 次いで「パート・アルバイト」が36.0%となった。製造業では31.4%、非製造業では38.6%となった。業種別では「観光」(83.6%)、「酒造」(66.7%)、「サービス」(60.0%)で割合が高くなり、パート・アルバイトの不足が深刻化している様子がうかがえる。 「契約社員」が不足していると回答した企業割合は15.1%であった。「派遣社員」は11.5%であったが、「電子部品」(55.6%)、「機械金属」(30.8%)の2業種で回答率が高くなった。
 参考として、同様の設問で実施した平成28年9月調査(以下、前回調査)と比較したところ、全産業で順位に変動はなかったものの、「派遣社員」で4.2ポイント上昇、「パート・アルバイト」で3.3ポイント上昇する結果となった。企業サイドとしては、業況の改善もあり労働力需要が高まっている一方で、人件費増というコスト面での懸念や、繁忙期・閑散期においても柔軟性をもって対応できる雇用形態での人員確保を望んでいることがうかがえる。

(4)不足している職種について
 「不足」している職種は、「技術職」(46.8%)が最も多くなった。製造業では74.5%、非製造業で30.7%となり、製造業で技術職の不足がより深刻となっている。特に「衣服縫製」は、全ての企業で「技術職」が不足していると回答し、「木材・木製品」(80.0%)、「機械金属」(76.9%)、「建設」(73.7%)でも割合が高くなった。技術職では「ベテランの定年退職が相次ぐため、技能工が将来的に不足する」(機械金属)との記述や、「新規採用をしているが、一定の実務レベルに達するまでは時間がかかるため、その間のコスト増加が懸念される」(情報サービス)との回答もあり、技術職の高齢化と代替要員確保の難しさが大きな課題となっている。
 次いで「営業職」が27.3%となった。「営業職」においては「木材・木製品」、印刷や食料品などの「その他製造」、「卸売・小売」で40.0%となった。「店頭販売・接客・サービス系職種」は23.7%となった。「観光」で72.7%となったほか、「サービス」でも60.0%となった。また、「管理職」については、「木材・木製品」で40.0%となった。
その他、「ドライバー」、「重機オペレーター」など、資格や技術が必要となる職種が不足しているとの記述もみられた。
 前回調査比較(全産業)では、「資格が必要な専門職」で4.2ポイント上昇したほか、「営業職」で2.8ポイント上昇した。一方、「管理職」では3.5ポイント低下した。
なお、これら業種別や職種別のアンケート調査結果は、ハローワークが公表している統計情報などとも概ね符合している。

(5)不足の要因について
 不足の要因は、「中途採用が困難」(64.0%)が最も多く、次いで「新卒採用が困難」が51.8%、「パート・派遣社員の人材確保が困難」が32.4%となり、企業側に採用する意思があっても、希望する人材および人数を確保できずに人手不足となっている様子がうかがえる。採用や人材確保に困難を感じている(「新卒採用が困難」、「中途採用が困難」、「パート・派遣社員の人材確保が困難」の合計)業種をみると、「サービス」、「衣服縫製」、「卸売・小売」、「観光」、「建設」、「機械金属」で割合が高くなった。
 回答企業からは、「求人を出しても応募者が少ない」(建設)、「応募者が少なく採用希望人数を確保できない」(衣服縫製)などの記述がみられた。人材不足を解消するため求人を出しても思うように採用活動が進まない状況にあるようだ。
 また、「定年退職者の増加」、「中途退職者の増加」も19.4%となり、人員構成や人材の定着についても課題が残っている。
 前回調査比較(全産業)では、「受注・仕事量の増加」が8.1ポイント上昇するなど、業況改善にともなう前向きな要因が増えたものの、「中途採用が困難」が23.1ポイント上昇、「新卒採用が困難」が8.2ポイント上昇するなど、人材獲得競争が激化してきていることがうかがえる。

(6)人員確保のための対策について
 人員確保のために講じている対策については、「正社員(新卒者を含む)を採用した(する予定)」と回答した企業割合(64.0%)が高くなったほか、「パート・アルバイトを採用した(する予定)」(21.6%)など、人手不足に対し新規雇用で対応している企業割合が高くなった。
業種別にみると、正社員の採用で対応した業種は「木材・木製品」、「建設」、印刷や食料品などの「その他製造」などで多くなった。
 また、「業務の効率性を高め、現状の従業員で対応できるようにした(する予定)」が36.0%、「受注や営業時間の調整を実施した(する予定)」が7.2%となり、業務の見直しや運営方法の変更などで対応した企業の割合も高くなった。また、「派遣や請負などの外部人材の活用を増やした(増やす予定)」が15.1%、「アウトソーシング(社外調達・外部委託)を増やした(増やす予定)」が9.4%となった。
 その他、「アルバイトからの社員登用」(卸売・小売)、「高齢者の再雇用」(建設、卸売・小売)などの回答が挙げられ、様々な方策で人手不足を乗り越えようとしている姿がみてとれる。
 前回調査比較(全産業)では、「パート・アルバイトを採用した(する予定)」が9.3ポイント低下、「正社員を採用した(する予定)」が4.2ポイント低下するなど、(5)不足の要因についてでもみられるとおり、採用難が影響しているとみられる。一方で、「業務の効率化を高め、現状の従業員で対応できるようにした(する予定)」が2.7ポイント上昇しており、自助努力による解決をはかる企業が増加したほか、「受注や営業時間の調整を実施した(する予定)」も4.2ポイント上昇しており、やむを得ず制限を設ける対策が増加していることもうかがえる。

(7)人手不足による影響について
 人手不足による影響について、「影響がある」と回答した企業が88.5%(前回調査比7.6ポイント上昇)となり、「影響がない」は8.6%(前回調査比7.8ポイント低下)にとどまるなど、前回調査時と比較して深刻化している状況がうかがえる。
 具体的な影響については、「売り上げ機会の損失」(63.4%)が最も多くなったほか、「納期の遅延」(24.4%)、「企画・開発力の低下」(12.2%)とする回答もみられ、実際の業務に大きな支障が出ていることが分かる。
 「人件費(時間外手当等)の上昇」も36.6%と3割を超えた。具体的には「引き抜きに備え賃金やボーナスを上げた」、「外注費が増加し、利益率が低下した」との回答が挙げられ、人手不足にともなうコスト上昇が業績にも影響を与えている様子がうかがえる。
 また、「現場の高齢化」(52.8%)のほか、「技能・ノウハウの伝承が困難」(27.6%)など、今後の経営に関わる問題も深刻であることが分かった。
 前回調査比較(全産業)では、「技能・ノウハウの伝承が困難」が13.0ポイント上昇となったほか、「納期の遅延」が13.2ポイント上昇するなど、人材育成および営業活動の両面で影響が深刻化していることがうかがえる。

3 まとめ

 今回のアンケート結果では、県内企業の52.3%が人手不足感を抱いており、このうち8割超で「正社員」が不足していると回答した。職種別では、特に技術職や資格が必要な専門職が不足しており、企業側は、採用活動を継続する一方、アウトソーシングや高齢者の再雇用による労働力調達のほか、業務の効率化など自助努力で対処している。しかし、各企業とも即戦力を求めるなか、採用難は深刻化しており、県内企業の45.7%が今後も人手不足が続くと回答するなど、先行きに不安を抱えていることも分かった。
 また、景気が回復をみせるなか、人手不足による受注抑制といった収益機会の逸失も発生しているほか、現場の高齢化、技術継承への影響といった将来的な企業存続にも関わる問題点も浮き彫りになってきている。一方で、働く側の意識も大きく変わってきており、収入面のみならず、仕事に対するやりがい、ワーク・ライフ・バランスの実現、多様な働き方などが重視される傾向も強くなっており、企業側の対応も強く求められてきている。
 労働力の確保にあっては、潜在的な労働力として、女性や高齢者の活用などが挙げられているほか、人口減少が著しい本県にとっては、若者の県内定着・回帰といった社会減抑制に向けた取組みも重要となる。
 県では、平成30年度から4年間にわたる県政運営の方針として「第3期ふるさと秋田元気創造プラン」を策定し、Aターン就職促進事業や県内就職促進事業など、労働力人口の確保に向けた取組みを強化することとしている。また、市町村単位でも「秋田市アンダー40正社員化促進事業補助金」など、新規雇用や職場定着、従業員の処遇や職場環境の改善を図るための助成金や様々な支援制度を整備・拡充している。各企業の置かれている状況はそれぞれ異なるものの、これらの制度も一助としながら、自社に適した施策を見出し、待遇改善や環境整備に努めることが重要となる。
 人手不足の解消には、多大なコストと時間を要する。各企業や行政がトライアル&エラーを繰り返しながらも継続的に取り組むことで、人材の確保が可能となり、定着にも繋がると考える。人材の定着がビジネスチャンスの拡大に繋がり、また、各企業の取組みが地域全体の活性化に繋がることを期待したい。
(打矢 亘)
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