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産業連関表からみた秋田県経済の概況

 今年1月、「平成23年秋田県産業連関表」が公表された。この産業連関表は、平成23年の1年間に県内で行われた各産業の財・サービスの生産や販売などの取引を一覧表に取りまとめたものである。本稿では、本産業連関表を用いて、本県の産業構造や産業間の相互依存関係、県際収支の状況などについて考察するほか、建設投資による本県への経済波及効果についても分析する。

1 産業連関表とは

 今年1月、「平成23年秋田県産業連関表」が公表された。産業連関表とは、一定期間(通常1年間)に一定地域(秋田県表では秋田県内)で行われた各産業の財・サービスの生産や販売などのあらゆる取引について、行列形式で一覧表に取りまとめたものである。例えば、ある1つの産業は、他の産業から原材料や燃料などを購入し、これを加工して別の財・サービスを生産し、さらにその生産物を別の産業に対して販売している。また、その生産物を購入した産業は、それらを原材料等として、新たに別の財・サービスを生産する。このような財・サービスの「購入→生産→販売」という連鎖的な繋がりを表したのが産業連関表である。
 産業連関表は多種多様な統計資料を用いて作られており、その作成には長期間を要し概ね5年毎の公表となる。統計データとしてはやや古く、足許の経済分析には不向きであるが、付加価値を把握する「経済計算」では捨象される「産業間の中間生産物の取引」が明らかになる特徴がある。また、国または地域の産業構造を網羅的に把握することができるほか、経済の将来予測や各種イベントの経済波及効果分析などにも活用される貴重な統計である。
 産業連関表は原則として西暦の末尾が「0」と「5」の年を基準年として5年毎に作成されてきたが、国の重要な基礎資料となる「経済センサス-活動調査-」が平成23年を対象に実施されたため、前回の「平成17年(2005年)」から6年後の「平成23年(2011年)」が基準年となった。なお、国では現在、平成27年産業連関表を作成するための各種調査を実施しており、次回の基準年は「平成27年(2015年)」となる予定である。

2 平成23年産業連関表からみた秋田県経済

 産業連関表は、取引基本表、投入係数表、逆行列係数表など、幾つかの表から構成されるが、単に産業連関表というと、取引基本表を指す。この取引基本表より、本県の産業構造や産業間の相互依存関係、県際収支などの状況を網羅的に把握、分析することができる。

(1)取引基本表のしくみ
 平成23年秋田県産業連関表は産業部門を108、39、15の部門に分類した表を作成している。本項では把握を容易にするために産業部門をさらに3部門に統合した表を使用する。例えば、第2次産業(鉱業+製造業+建設)は、生産に必要な原材料等を第1次産業から597億円、第2次産業から5,744億円、第3次産業から3,712億円の計1兆54億円購入し、雇用者所得、営業余剰など粗付加価値(これが県民経済計算の県内総生産に概ね対応する)を6,086億円生み出し、県内生産額(当該産業の生産活動によって生み出された財・サービスの生産額)は1兆6,140億円となっている。
 次に、表を横方向にみると、各産業が生産した商品の販路構成が分かる。同じく第2次産業は、原材料等として使用するための中間財を第1次産業に399億円、第2次産業に5,744億円、第3次産業に4,936億円の計1兆1,079億円販売し、家計での消費や、企業が設備投資を行うための最終財を1兆9,914億円販売している。この中間財と最終財を合わせた3兆993億円が第2次産業に対する総需要額である。総需要額は県内生産額1兆6,140億円を上回っているが、これは、総需要額には県外から購入した分も含まれているためである。この県外から購入した分が輸移入1兆4,853億円で、県外で生産されたものであるためマイナスに計上される。総需要から輸移入額を差し引くと1兆6,140億円となり、縦方向の県内生産額と一致する。

(2)県内生産額と構成比の推移
 平成23年の県内生産額は5兆7,512億円となり、17年に比べ11.0%減少した。この間、20年9月に発生したリーマン・ショックや為替円高の影響により、本県製造業のリーディング産業である電子部品が低迷を続けていたことや、23年3月の東日本大震災により、被災地の復興関連需要等から本県の公共事業が全国に比べ大幅に減少したことなどが要因として考えられる。
 23年の県内生産額の構成比を産業別にみると、第1次産業が4.1%、第2次産業が28.1%、第3次産業が67.9%となっている。第3次産業が7割弱を占める一方、本県は農業県といわれながらも第1次産業は僅かな割合にとどまっている。17年対比では、第2次産業が割合を下げているのに対し、第1次産業は横這い、第3次産業は割合を上げている。
 産業部門別にみると、商業の占める割合が10.3%で最も高く、次いで医療・福祉10.2%、不動産7.9%、建設7.5%、公務6.9%の順となっている。17年との比較では、最も割合が上昇したのは医療・福祉の+2.7ポイント、次いで電力・ガス・熱供給の+1.3ポイント、化学製品の+1.0ポイントとなっている。逆に最も割合が低下したのが、電子部品の△3.2ポイント、次いで建設の△2.4ポイントで、この両部門が前述したリーマン・ショックや東日本大震災の影響を受け大きく低下している。

(3)特化係数
 特化係数とは、本県の各産業部門生産額の構成比と、全国の同産業部門生産額の構成比を比較したものである。特化係数が1を超えていれば、全国に比べてその産業部門に特化しているといえる。
 産業部門別特化係数をみると、最も高いのは林業の7.18で、突出している。本県の森林面積は83万5千haと県土の7割を占め、全国6位の森林県である。特にスギの人工林面積は全国1位を誇り、スギの生産量は宮崎県に次いで2位となっていることなどが、林業の特化係数が高い要因として考えられる。次いで、電子部品の3.55、農業3.24、繊維製品3.20、鉱業3.11の順となっている。
 一方、特化係数が低いのは、石油・石炭製品の0.09、鉄鋼0.11、はん用機械0.12、輸送機械0.17、電気機械0.26などで、基礎素材型や加工組立型に分類される製造業種が多く、この分野の弱さが表れている。

(4)県際収支の状況
 県際収支とは、「県境を越えた取引の収支」を表したもので、「県外への輸移出額」から「県内への輸移入額」を差し引いて算出する。本県の県際収支は輸移入額が輸移出額を上回り、恒常的に赤字(輸移入超過)の状態となっている。これは、本県の経済が県内で生産した財・サービスを県外に販売するよりも、県外で生産された財・サービスを多く購入していることを示している。
 23年の輸移出額は1兆4,934億円、輸移入額は2兆2,142億円となっている。この結果、本県の県際収支は7,208億円の赤字となっており、17年比では赤字幅も465億円悪化するなど、近年は赤字幅の拡大傾向が続いている。
 産業部門別の輸移出額および輸移入額の状況をみると、輸移出超過型の産業は、昭和60年頃まで農業や地場産業的色彩の強いものなど一部に限られていたが、その後は電子部品や業務用機械(精密機械)など加工組立型の産業の比重が高まっている。特に、直近の23年でも、電子部品の県際収支の黒字幅(輸移出超過幅)は1,834億円と最も大きく、同産業が本県の「外貨」獲得の中心的な担い手として大きな役割を果たしていることが分かる。17年対比では、電子部品の輸移出超過額は1,834億円と1,337億円減少したが、電力・ガス・熱供給は1,232億円と551億円増加している。これは、東日本大震災の発生により国内の原子力発電所が全て停止するなか、県内に2か所ある火力発電所がフル稼働し、電力を県外へ供給したことが要因として考えられる。
 輸移入超過型の産業には、石油・石炭製品、情報通信、対事業所サービスなどが上位を占めているが、これらの産業に対して発生した需要は県外からの供給に大きく依存している。特に、23年の飲食料品の輸移入超過額は1,233億円と大幅な赤字となっている。これは、本県が米などの1次産品を安価で県外に販売する一方(農業は968億円の黒字)、それらの加工品を県外から高い価格で購入していることを示している。県内の食品加工体制を強化し、県内で生産された1次産品に付加価値を付け、県外に積極的に売り込んでいく必要がある。

(5)RIC指数による競争力分析
 次に、県際収支に着目したRIC(Revealed International Competitiveness)指数を用いて競争力分析を行ってみる。RIC指数とは、県内生産額に対して県際収支がどの程度の大きさかを示した指数で、RIC 指数が大きい産業部門ほど対外的競争力があると判断される。逆に指数がマイナスになると対外競争力が低いことになる。ここでは、東北6県の農林水産業と飲食料品製造業について、RIC指数による競争力分析を行ってみる。
 平成23年の農林水産業のRIC指数をみると、本県は0.41、青森県0.30、岩手県0.24、宮城県△0.22、山形県0.40、福島県△0.01となっている。本県の指数は東北6県の中で最も高く、本県、青森県、岩手県、山形県において対外競争力を有していることが分かる。17年対比では、本県は+0.12となっているのに対し、福島県では△0.14となっている。23年は東日本大震災による米の供給不足から一時的に米価が上昇し本県の農業は競争力を高めているが、福島県では震災被害の影響を受け農業や漁業で競争力を下げている。
 次に、23年の飲食料品製造業のRIC指数をみると、本県は△0.76、青森県△0.06、岩手県△0.16、宮城県△0.37、山形県0.10、福島県0.01となっている。本県の指数は東北6県の中で最も低く、山形県、福島県において対外競争力を有していることが分かる。特に山形県においては、農林水産業、飲食料品製造業ともに対外競争力を有している。17年対比では、本県は+0.01となっているが、岩手県は△0.34、宮城県△0.44、福島県△0.28と指数を大きく下げている。これは、震災により各県の沿岸地域の水産加工業が甚大な被害を受けたことなどが影響している。

3 生産波及効果分析

(1)逆行列係数
 逆行列係数とは、ある産業に対して1単位の最終需要が発生した場合、その需要を満たすために、必要とされる各産業の生産が最終的にどれだけ必要になるかという生産波及の大きさを示す係数である。数学上の逆行列を求める方法で算出することからこのように呼ばれているが、この係数を産業部門別に一覧表にしたものが逆行列係数表である。この逆行列係数表が経済の将来予測や各種イベントの経済波及効果分析に活用される。
 逆行列係数表の列和(縦方向の合計)は、それぞれの産業に1単位の最終需要の増加があった場合、それが全ての産業へ与える誘発効果の合計を示している。例えば、農業に100億円の需要増加が生じたとすると、農業に100億円×1.086575(逆行列係数)=108.66億円、製造業に100億円×0.038379=3.84億円、全部門では、100億円×1.318182=131.82億円の生産を誘発(元の100億円を含む)することになる。
 この逆行列係数表には、開放経済型と封鎖経済型の2種類あるが、前者は需要の一部を県外からの供給に依存しているとする現実に即したモデルであるのに対し、後者は全ての需要を県内で自給自足しているとする仮想的なモデルである。一般的には、現実の経済構造に即した開放経済型の逆行列係数表が利用されている。

(2)産業部門別の生産波及効果
 各産業に対して100億円の最終需要の増加があった場合、全産業に及ぼす生産波及効果の大きさは、全産業平均で129.27億円となる。産業部門別にみると、飲食料品が156.83億円と最も大きく、次いで水道147.14億円、鉱業142.24億円、電子部品139.08億円などが上位を占めており、これらの部門は県内の生産活動に与える影響力が大きい。
 一方、生産波及効果が小さい部門は、輸送機械の115.13億円、石油・石炭製品116.30億円、漁業117.12億円、不動産117.39億円などとなっている。

4 産業連関表を使った経済波及効果分析

 経済波及効果分析とは、消費や投資といった最終需要の増加が県内生産額を直接・間接にどれくらい増加させるかを分析することである。このため、経済波及効果分析をする際には、最初に最終需要がどの部門にどれくらいの金額で発生するかを想定することが必要であり、この推計作業が分析の精度を左右する最も重要な部分である。最終需要増加額が推計されると、次は産業連関表を活用して波及効果の推計を行うことになる。
 ここでは、経済波及効果分析の具対的な手順として、「平成23年秋田県産業連関表」の中で取り上げられている事例を用いる。経済波及効果の推計は、通常、以下の3つの段階に分けて捉えられる。

(1)直接効果
 県内に波及効果が生じるのは、あくまでも県内で生産活動を行った場合に限られる。そこで建設部門に発生した最終需要増加額100億円のうち県内最終需要増加額がいくらになるかを推計する必要がある。これは最終需要増加額に県内自給率(1-輸移入率)を乗じて算出するが、建設部門の自給率は100%であるため、当初の建設投資額100億円がそのまま県内最終需要増加額となる。この初期投資により最初に現れる効果を直接効果といい、この直接効果に建設部門の投入係数表の係数を乗じることで、原材料誘発額55.64億円、粗付加価値誘発額44.36億円、雇用所得誘発額34.01億円がそれぞれ求められる。

(2)第1次波及効果
 建設部門に最終需要増加額100億円が発生すると、それを満たすために関連する産業部門で生産活動が行われるが、そのための原材料等の需要が新たに発生し、またそれを充足するためにさらに生産が行われるというように、次々と生産が波及していく。この直接効果に伴って生じる原材料等の需要により誘発される効果を第1次波及効果という。
 直接効果によって55.64億円の原材料需要が発生しているが、この中には県外から調達する分も含まれるため、自給率を乗じて県内で調達される26.42億円を求める。これに各産業部門の逆行列係数を乗じることによって第1次波及効果を求めることができる。県内全産業
では34.54億円の生産が誘発され、粗付加価値誘発額は19.88億円、雇用者所得誘発額は10.83億円となる。

(3)第2次波及効果
 直接効果および第1次波及効果によって生産が増加すれば、それに応じて雇用者所得も増加する。雇用者所得が増加すれば、その増加分のうち一部は消費支出に回り、新たな需要を生み出して、さらに生産が誘発される。これを第2次波及効果という。
 直接効果および第1次波及効果により雇用者所得誘発額44.84億円が発生しているが、これに消費転換率を乗じて消費支出増加額29.17億円を求める。これを消費パターン(消費支出の産業別構成比)から産業別の増加額に引き直した後、自給率を乗じたものが県内需要増加額19.81億円となる。これに各産業部門の逆行列係数を乗じることによって第2次波及効果25.34億円を求めることができる。
 このような「所得増加→消費支出増加→生産誘発」という連鎖的な繋がりは、理論上は波及効果が0になるまで続いていくが、第3次経済波及効果以降の生産誘発額は極端に小さくなるため、経済波及効果の測定は、第2次波及効果まで推計するのが通例である。

(4)総合効果
 上記の推計結果から、本県で100億円の建設投資が行われた場合、総合効果(直接効果+第1次波及効果+第2次波及効果)は159.88億円となり、本県への建設投資は投資額の1.60倍の経済波及効果をもたらすことになる。

5 おわりに

 以上、秋田県経済の概況および経済波及効果分析の結果についてみてきたが、産業連関表を用いることで、このように地域の特性を明らかにすることができる。産業連関表は、これまで国や都道府県、主要な政令指定都市において作成されてきたが、近年では地方版総合戦略の策定に伴い、市町村単位でも作成を試みる自治体が増えてきている。こうした分析結果を踏まえ、どのような地域内外の連関構造が本県経済の活性化に繋がるかを見極め、具体的な施策を打ち出していくことが大切である。
(山崎 要)
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