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県内市町村財政の現状

 「地方公共団体の財政の健全化に関する法律」(自治体財政健全化法-以下、「健全化法」)が平成19年に制定されてから10年あまりが経過した。その間、健全化法に基づき公表が義務づけられている4つの指標をみると、全国的に地方自治体の財政健全化は着実に進んできたようにみえる。一方、昨年開かれた政府の経済財政諮問会議では、自治体が積み上げている基金が年々増加していることを問題視する意見が出ている。果たして地方自治体の財政は改善しているのか、また基金の実情はどうなのか、県内市町村の指標に当てはめながら現状を概観する。

1 健全化判断比率にみる県内市町村財政の現状

(1)健全化判断比率とは
 平成の大合併が平成19年3月末に完了し、同年6月に健全化法が制定された。これに基づき地方公共団体は19年度から毎年、実質赤字比率(※1)、連結実質赤字比率(※2)、実質公債費比率(※3)、将来負担比率(※4)を健全化判断比率として公表している。それぞれの指標において「自主的かつ計画的にその財政の健全化をはかる基準」として「早期健全化基準」が示されており、指標の一つでも基準以上になると「早期健全化団体」となり、「財政健全化計画」を策定しなければならない。いわば「イエローカード」の状態である。さらに、将来負担比率を除く指標には「レッドカード」に該当する「財政再生基準」が定められており、一つでも基準以上になると「財政再生団体」となり、「財政再生計画」の策定が義務づけられ、国の厳しい管理下に置かれることになる。19年に事実上財政破たんした夕張市はこれにあたる。
 全国の最新データが揃っている28年度をみると、全国の地方自治体のうち、実質赤字、連結実質赤字がある団体はない。実質公債費比率と将来負担比率で早期健全化基準以上であるのは、それぞれ1団体ずつである(いずれも夕張市)。

※1実質赤字比率:一般会計を対象とした実質赤字額の標準財政規模(標準的な状態で通常収入されるであろう経常的一般財源の規模)に対する比率
※2連結実質赤字比率:全会計を対象とした実質赤字額または資金の不足額の標準財政規模に対する比率
※3実質公債費比率:一般会計が負担する負債の元本返済額と支払金利の合計の標準財政規模に対する比率
※4将来負担比率:自治体および自治体が返済に関与する第三セクターなどの負債の標準財政規模に対する比率

(2)県内市町村の健全化比率
 県内市町村の健全化比率について、市町村合併が終わり公表初年度となった19年度、最新の指標である28年度、さらにその中間の23年度を加えて比較した。各市町村とも赤字を計上した年度は一度もない。他の指標でも実質公債費比率で23年度の大仙市と羽後町、将来負担比率で28年度の小坂町が前の比較年度より悪化したケースはあるが、それ以外はすべて段階的に改善されてきている。また、全市町村とも調査年度すべてにおいて早期健全化基準(実質公債費比率25%、将来負担比率350%)を下回っている。この結果から見ると、県内すべての市町村で財政の健全度合は向上してきていると言える。

2 各指標からみた県内市町村財政の現状

 ここからは県内市町村の平成19年度、23年度、そして最新の決算が公表されている27年度について、総務省の「市町村カード」をもとに比較する。
(1)歳入面
 比較3年度の歳入は、県内25市町村のうち、23年度は小坂町と東成瀬村の2町村で減少したが、27年度は能代市、由利本荘市をはじめ10市町村で減少した。各市町村とも地方税のみで歳出を賄うことはできず、地方交付税や国庫支出金などの国からの支援と、借入にあたる地方債などで補完している。そのうち最も大きなウエイトを占めるのが地方交付税である。19年度と23年度の比較では地方税の減少が続き、その分地方交付税が増加したが、27年度は17市町村で減少した。

(2)歳出面
 比較3年度の歳出は、歳出が減少したのは23年度が4市町村だったが、27年度は12市町村となっている。一般家庭の場合は収入が減少すると、支出を抑えるが、自治体の場合、歳入が減少したからその分歳出も減らせばよいという訳にはいかない。行政の役割上、費用がかかるからと言って削減や廃止が出来ないサービスが多いためである。例えば歳出のうち最も大きなウエイトを占めるのが扶助費(児童・高齢者・障がい者・生活困窮者などへの支援に要する経費)であるが、27年度の上小阿仁村を除き、各市町村、各年度とも増加する一方である。高齢化が進む秋田県では、老人福祉費や生活保護費等の増加により、今後も増え続けていくことは避けられない。また、インフラ整備や老朽化した施設の建て替えなど、簡単に削減できないものも多い。
削減できる行政サービスがあまりないなか、各市町村とも歳出の圧縮に向けて努力を続けてきている。特に目立つのは、扶助費の次に割合の高い人件費の圧縮である。人件費は、23年度の潟上市、27年度の八郎潟町と大潟村を除いていずれの比較年度でも減少し続けている。このうち潟上市では、23年度から人事評価制度を導入した給与体系に変更したことから一時的に人件費が上昇したものである。また、19年度から23年度にかけて各市町村とも職員数を減らしてきているなかで、27年度は前述の八郎潟町や大潟村などを含む4町村で職員数が微増したが、これは微増した町村の全てが単独立町を選択しており、ギリギリまで職員を削減してきているものの、適正な行政サービスを提供するうえで、職員数が限界にきている結果とも言える。

(3)財政力指数
 歳入と歳出をみてきたが、自治体の財政力の強さを示す指標に、財政力指数がある。

 財政力指数=基準財政収入額(※5)/基準財政需要額(※6)

※5 地方公共団体の標準的な地方税収額
※6 地方公共団体が合理的水準で行政事務を遂行するために必要な経費。各自治体での地方交付税の算定に用いるもので、各自治体が標準的な行政を合理的水準で実施したと考えた時に必要と推定される「一般財源(使徒制限がない財源)」の額

 各地方公共団体が、合理的水準で行政を進めるために必要な経費を標準的な税収でどの程度賄えるか、行政運営に必要な経費を市町村の収入でどの程度賄えるかを表す指標である。この数値が高いほど、自治体の財政力が強いということであり、数値が1を超えると国からの地方交付税がなくても行政運営ができるということになる。地方交付税の算定にも使われる指標である。

 27年度の秋田市と鹿角市を除き、すべての市町村、比較年度で横這いまたは悪化している。27年度では、東成瀬村が0.10、上小阿仁村が0.11、藤里町が0.12となるなど、人口の少ない町村が低い数値となっており、より財政が厳しい状況にあると言える。秋田県の市町村平均をみると、今回の調査年度である19年度は0.33、23年度は0.30、27年度は0.29であり、いずれも全国47都道府県中、下から5番目となっており、全国の中でも財政が厳しいことが窺える。また全国の市町村平均の推移をみても、秋田県が調査年度ごとに悪化しているのと同様、全国平均も19年度は0.55、23年度は0.51、27年度は0.50と悪化が続いている。この指標からみると秋田県だけでなく、全国的にみても、市町村の財政は改善されているどころか、厳しさが増してきていることがわかる。健全化比率が向上しているからと言って、財政も改善しているとは一概に言えない結果となっている。

3 基金について

(1)基金をめぐる状況
 自治体は不測の事態への備えや、建物の老朽化など、今後明らかに必要となる費用のために基金を積み立てている。一般家庭で事故や病気に備えたり、自宅の修繕の為に貯金をするのと同様である。基金には①自治体が歳入不足や歳出増加の際に備えておく「財政調整基金」、②地方債の返済に備えておく「減債基金」、③施設の建設などの個別用途に備えておく「その他特定目的基金」がある。
 昨年5月の経済財政諮問会議において民間議員から、地方自治体における基金の残高が20兆円を上回る水準に達していることを問題視する発言があり、11月の同会議でも再度議論がなされた。国が借金をしてまで地方交付税等で地方へ資金援助しているのに、地方が基金を増加し続けているのはおかしい、基金を有効活用すれば地方交付税を減らせるのではないかという考えである。
 この会議では基金の適正度を比較するにあたって、「基金積立残高÷基準財政需要額(※6参照)」という指標を用いている。これは、行政維持に必要な需要額の何倍を基金で積み立てているかというものであり、数値が高いほど過剰に積立をしているという考えである。平成27年度のこの指標を調べた結果、財政力指数が低く高齢者率も高い自治体、つまり高齢化が進み財政力が弱い自治体で基準財政需要額以上の積立をしているケースがあり、おかしいのではないかという指摘である。

(2)県内市町村の基金の状況
 県内における各市町村の基金積立残高推移は、23年度の羽後町と27年度の5市町村を除き、すべての市町村で増加している。経済財政諮問会議で出された「基金積立残高÷基準財政需要額」の数値を27年度の県内

(3)基金の適正度合いに対する別の見方
 「週刊エコノミスト」の昨年11月21日号にお市町村で算出してみたところ、1倍以上は、北秋田市、上小阿仁村、八峰町、八郎潟町、井川町、東成瀬村の6市町村であった。 いて、地方自治体財政の特集記事の中で、地方自治体における基金の適正度をはかるために「財政調整基金÷標準財政規模 」という指標が用いられている。前述の経済財政諮問会議の指標は、各自治体で1年間適正な運営をするにあたって必要な額の何倍を基金全体で積み立てているかというものであるが、同誌の指標は標準財政規模の何%を財政調整基金で積み立てているかというものである。この指標では、仮に不測の事態が生じても、財政再建団体に陥らない水準にあるかを調べるため、標準財政規模に占める財政調整基金の割合が何%あるかをみたものである。市町村ではこの数値が20%以上あれば、仮に赤字となっても財政調整基金で穴埋めをして財政再生団体を回避できるというものである。
 県内市町村の財政調整基金は、27年度の男鹿市、藤里町、五城目町、東成瀬村を除くと、残高は増加している。27年度に財政調整基金の残高が減少した4市町村を除き、改善されてきている。
 市町村平均でも、19年度14.13%、23年度26.75%、27年度36.18%となっている。特に27年度は全25市町村中18市町村が20%を超えた。20%に満たなかったのは、秋田市、大館市、男鹿市、由利本荘市、大仙市と、井川町、大潟村の7市町村であるが、県内では比較的人口の多い市と、単独立町を選択した人口の少ない町村が混在しており、人口とは関連性がないことがわかる。なおこの調査では、20%以上あれば当面問題はないという判断基準であって、それ以上の積立は必要ないと言うことではない。

(4)基金が増加する理由
 昨年11月の経済財政諮問会議において、総務省が自治体の基金に対する調査の結果を公表している。平成18年度と28年度を比較(東日本大震災、熊本地震分を除く)すると、基金は10年間で7.9兆円増加した。内訳は「減債基金」が0.4兆円、「特定目的基金」は4.1兆円、「財政調整基金」は3.5兆円、それぞれ増加した。また基金を積み増しした理由のうち、「その他将来の歳入減少、歳出増加への備え」を理由として積み立てているのは、「特定目的基金」で2.6兆円、「財政調整基金」で3.0兆円となっている。つまり、将来不測の事態が起こっても対応できるように積み立てているということである。
 また、基金積立の方策、つまり積立の財源をどのように確保したかという設問への回答では、都道府県が「国費関連分の増に対応」が最も多く、次いで「税収如何にかかわらず行革、経費削減等により捻出した額」となっているが、市町村の回答は「税収如何にかかわらず行革、経費削減等により捻出した額」が最も多く、次いで「歳出の不用額」となっている。つまり市町村では経費削減や歳出の見直し等により努力して積み立ててきたのであり、地方交付税等、国からの援助によるものを積み立てているという訳ではないということである。このような状況で基金の増加のみを理由に地方交付税を減額すると、将来に向けて歳出を抑制するという自治体の意欲がそがれてしまう恐れがある。

4 まとめ

(1) 国の地方交付税の算出基準となっている財政力指数をみると、県内はもとより全国的にも、国からの援助なく行政運営をしていける自治体は東京都をはじめわずかな自治体しかない。今後、人口減少に伴い税収はさらに減少していくため、ますます国依存が強まっていくのは明らかである。
(2) 国が地方を援助するのは当然ではあるが、国の財政も厳しく、借金を増やして地方を援助しているという状態である。したがって前述のような、地方自治体の基金が積み上がっているのは問題だという意見も出てくる。また、地方自治体でも業務の効率化や経費削減など財政改善に向けてもっと努力すべきというのももっともである。しかし、人口減少が加速度的に進む日本、特に秋田県において、歳入を飛躍的に伸ばすことは難しい。必然的に財政を改善するためには歳出を抑えるしかないが、職員数、人件費の削減をみても、自治体の努力は限界に近づいてきていると言える。
(3) 地方自治体からすると、基金はここまであれば十分という基準がなく、不測の事態に備えて、いくらでも積み立てておきたいと言うのが本音であろう。災害やインフラ老朽化への対策、増大する社会保障費への対応など、将来への備えとして、基金はいくらあっても不安はなくならないのではないか。基金が積み上がっていることを問題視するのではなく、なぜ地方自治体が基金を積み上げているか、その背景にある要因、理由について突き詰め、議論する必要がある。
(4) 秋田県の県税収入は2019年度以降、「地方消費税の税率引き上げ等により増となるものの、実質的な地方交付税(地方交付税+臨時財政対策債)は人口減少の影響等により減となり、歳入の一般財源総額は減少していく見込み」である。(2017年6月秋田県「財政の中長期見通しについて」より)県と同様に市町村においても自治体単体での財政改善は、今後ますます厳しさを増していく。このため秋田県では、県と各市町村合同で、将来の人口減、税収減に備えて「人口減少社会に対応する行政運営のあり方研究会」を設置し広域化による改善策の協議を行っている。その1つとして、2020年をめどに2つの下水処理場を1つに集約し、50年間で120億円のコストを削減するという計画が進められている。
(5) 今後も各自治体おけるサービスの効率化、歳出の抑制等、財政改善に向けた努力は引き続き必要であるが、それと並行して、行政の効率化に向けた広域連携や地方税の在り方の見直しなど、国レベルでの対策が不可欠になっている。それもスピーディーに対応していかなければ、国も地方もますます疲弊していくことになる。地方自治体の財政が改善されていけば、国の負担も減少し、当然ながら国の財政改善にもつながっていく。国、地方一体となっての将来を見据えた抜本的な対応策が求められる。
(岩橋 彰)
あきた経済

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