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ネット通販市場の拡大

 ネットショッピングによる消費は、近年、右肩上がりで増加しており、実店舗主体の既存業態の存続を脅かし、消費構造に大きな変化をもたらしている。一方で、ネットショッピングによる消費の拡大は、物流量の急激な増加を招き、運送業等流通業界は人手不足とコストアップの問題が深刻化しているが、ネットショッピングが販売チャネルとして今後一層重要性を増してくることは間違いない。ネットショッピングの現状について概観する。

1 ネットショッピングの推移

 総務省の「家計消費状況調査」結果によると、ネットショッピングを利用した世帯の割合(二人以上の世帯)は、平成14年に5.3%であったものが28年には27.8%に増加しており、これにともない、1世帯当たり1か月間のネットショッピングの支出総額(二人以上の世帯)も、14年の1,105円から28年には8,535円と14年間で8倍近くに増加している。この間、二人以上の世帯1世帯当たり1か月間の消費支出総額は、14年の305,953円から28年は282,188円と8%弱も減少していることを考え合わせると、ネット消費の増加は際立っている。
 一方、こうしたネットショッピングの急増が、物流業者の人手不足とコストアップなど新たな問題を惹起している点にも留意が必要である。国土交通省の調査によると、宅配便の取扱個数は、24年度の35億2,600万個から28年度は40億1,900万個と初めて40億個を突破し、この4年間で14.0%もの増加となっている。
 なお、経済産業省の「平成28年度我が国経済社会の情報化・サービス化に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」によると、同年におけるネット通販の国内市場規模は15兆1,358億円とされる。

2 世帯主の年齢階級別利用状況

 世帯主の年齢階級別(二人以上の世帯)に1か月間のネットショッピングの支出金額を見ると、支出金額の最も多い年齢階級は50歳代で平成28年は13,212円、以下、40歳代が12,220円、40歳未満が11,921円と、全体の平均支出額である8,535円を上回っている。反対に最も少ないのは70歳以上で3,565円、次の60歳代が7,381円となっている。
 平成14年当時は40歳未満が最も支出額が多く、年齢層が上がるにつれて支出額が減少していたが、10年後の24年には40歳代の支出額が40歳未満を上回るようになり、さらにその3年後の27年からは50歳代が全年齢階級で最も支出額が多くなっているなど、変化が見受けられる。14年当時40歳未満であった主たる利用世帯の世帯主は、10年後の24年には40歳代となることから、この間の年齢階級別支出額の推移は自然な流れにも思えるが、27年からの50歳代の支出増加は、それでは説明がつかない。世帯主が40歳未満の階級層は、年齢からみて世帯主とその配偶者がネットショッピングの主たる利用者と考えられるが、世帯主が50歳代の階級層は、世帯員である同居の子どもも主たる利用者に加わっている層と考えられ、世帯主および配偶者自体の利用拡大はもとより、その子どもである若年層の利用が一層拡大したものと捉えられる。

3 主な支出項目

 二人以上の世帯における平成28年のネットショッピングの支出金額について、支出項目別の構成比をみると、最も割合の高いのは「旅行関係費」で21.9%、次いで「食料」が14.6%、「衣類・履物」が10.6%、「家電・家具」が10.3%、「教養関係費」が9.7%の順となっている。以下、「贈答品」が4.7%、「保健・医療」が4.7%、「保険」が4.5%と続き、「その他」が19.1%を占める。

4 情報通信機器の普及

 こうしたネットショッピング拡大の背景には、情報通信機器の普及がある。主な情報通信機器の世帯保有率の推移をみると、パソコンの世帯保有率は、平成21年の87.2%をピークに、28年は73.0%まで低下しているが、代わってスマートフォンやタブレット型端末の保有率が高まり、特にスマートフォンの世帯保有率は22年の9.7%から28年には71.8%と急速に普及しており、スマートフォンを含む携帯電話・PHS等のモバイル端末全体の世帯保有率は28年で94.7%にのぼっている。これにともなって、インターネットの利用者数は17年の8,529万人から28年は1億84万人(17年対比18.2%増)、人口普及率は17年の70.8%から28年は83.5%(同12.7ポイント上昇)に増加している。

5 消費構造の変化

 一方で、アマゾンや楽天に代表されるネット通販業者の取扱商品やサービスの拡充が、消費者の購入行動の大転換を促し、ネット通販市場拡大を主導してきたことは言うまでもない。
 米国で生まれたアマゾンの日本法人がネット通販サイトをオープンしたのは平成12年11月。当初は書籍やCD等に取扱商品が限られていたものが、以降17年間で取扱品目の幅を順次拡大し、今や取扱品目数は2億に達し、「アマゾンで売っていない商品は『存在しない』」と言われるまでに急成長を遂げている。
 こうしたネット通販市場の拡大に反比例して、従来型販売チャネルである実店舗主体の小売業の多くは苦境に立たされており、百貨店やスーパーはその代表格と言える。日本百貨店協会の公表値による百貨店の売上は、平成16年に7兆8,788億円あったものが、28年には5兆9,780億円となり、この間の減少率は24.1%に及ぶ。同様に、日本チェーンストア協会の公表値によるスーパーの売上は、16年の14兆2,533億円から28年は13兆426億円となり、百貨店に比べると減少率が小さいものの、8.5%も減少している。こうした百貨店やスーパーの売上減少は、人口減少やコンビニ、ドラッグストア等他業態との競合も影響しており、決してネットショッピングの拡大だけが原因ではないにしろ、消費構造の変化を端的に表す例と言える。

6 本県のネットショッピングの現状

 現状では都道府県別のネットショッピングにかかる統計情報は、総務省が5年ごとに実施している「全国消費実態調査」以外に見当たらず、入手可能な最新データは平成26年の同調査結果となる。これにより、都道府県別の消費支出総額に占めるネットショッピングによる購入割合を見ると、神奈川県が最も高く、次いで埼玉県、東京都と続く。また、都道府県別にネットショッピングによる購入割合と人口に占める15~39歳の割合を散布図にしてみると、概して15~39歳の人口割合が高い都道府県の方がネットショッピングによる購入割合も高くなる傾向が見られる。ところが、本県は15~39歳の人口割合が低いにも関わらず、ネットショッピングによる購入割合が突出して高い。実店舗へのアクセスの悪さや、購入可能アイテムの少なさ、あるいは商品価格の割高感など、実店舗でのショッピング環境における他都道府県との相対的な不便さや、高齢化率の高さなどに起因している可能性も十分に考えられる。

7 ネットショッピングの利点と難点

(1)ネットショッピングの利点としては、以下のようなものが挙げられる。
・実店舗に比べコストがかからない分、店頭販売より商品単価が相対的に安価。
・実店舗に行く手間が省け、自宅にいながらにして、欲しい商品やサービスを探し、購入することができる。商品も通常自宅まで配送される。
・実店舗のような営業時間の制限を気にせず、1日24時間、年間365日いつでも利用可能。
・最寄りの実店舗よりも、購入可能な商品やサービスの種類が豊富。
・地方(遠隔地)居住の不便さがない。
(2)一方、ネットショッピングの難点としては、以下のようなことが挙げられる。
・商品を実際に手に取って確認できないため、配送された商品がイメージと異なったり、サイズが合わないなどのトラブル発生の可能性がある。
・購入履歴や支払手段等の個人情報に関しセキュリティ面で不安が残る。

8 まとめ

(1)ネットショッピングの利用により、首都圏から遠距離に立地する本県の地理的弱点はほとんど無視できることになる。また、自宅にいながら商品やサービスの購入が可能となる点は、高齢者にとっても活用のメリットが大きい。高齢化が最も進展している本県だからこそ、ネットショッピング活用のメリットもまた大きいと言える。
(2)企業サイドから見ても、本県のネットショッピングの利用実績を見れば、商品やサービスによっては消費需要がまだ十分にあると言える。購入品目や地域特性の分析を進めていくことによって、以降の自社の事業展開の方向性を検討することも可能と思われる。
(3)ネットショッピングを上手く活用できれば、マーケットの拡大が可能となることは言うまでもない。リアル店舗販売かネット販売かといった二者択一ではなく、どちらにも対応可能としつつ、事業領域や取扱商品の棲み分けをはかることで、販売チャネルは広がることになる。
(4)この場合、地域性の濃厚な商品・サービスほどネット販売を上手く活用し、「そこでしか買えない」稀少性に訴えかけることが、他社との差別化をはかるうえで有効となるのでないか。いずれにしろ、これほど市場の拡大したネットショッピングを積極的に自社の事業展開に活用しない法はない。
(工藤 修)
あきた経済

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