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県内企業の事業承継に関する動向について

 中小企業経営者の高齢化が進み、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えようとしている。中小企業に蓄積された技術やノウハウを次世代に受け継ぎ、世代交代によるさらなる活性化を実現するために、円滑な事業継承は極めて重要な課題である。しかし一方で、休廃業・解散した企業が昨年2万9,500件を超えて過去最多を記録するなど、後継者不足が深刻化している。本稿では、中小企業の事業承継を取り巻く現状や課題を考察するとともに、当研究所が県内企業に行ったアンケート調査結果に基づき、県内企業の事業承継に関する動向についてまとめてみた。

1 中小企業経営者の高齢化

 我が国の企業数の99.7%を占める中小企業は、平成11年(484万社)から26年(381万社)までの15年間に100万社以上減少した。減少数がピークであったリーマン・ショック後も緩やかではあるが中小企業数は減少傾向にある。
 また、中小企業経営者の高齢化も進んでおり、中小企業庁が公表した「事業承継ガイドライン」(平成28年12月)によると、中小企業経営者の年齢層は7年には50~54歳が最も多かったが、27年には65~69歳に移ってきている。中小企業経営者の引退年齢は、平均では67~70歳程度であるため、今後5年程度で多くの中小企業が事業承継のタイミングを迎えることが想定されている。

2 後継者不足の深刻化

 中小企業経営者の高齢化が進む中、自社の将来性に不安を感じ、廃業を検討している経営者が増えている。日本政策金融公庫総合研究所が実施した「中小企業の事業承継に関するインターネット調査」(平成28年2月)によると、60歳以上の経営者のうち、半数以上が廃業を予定していると回答している。
 廃業予定企業の廃業理由をみると、「当初から自分の代でやめようと思っていた」が最も多く、次いで「事業に将来性がない」となっている。さらに「子供に継ぐ意思がない」、「子供がいない」、「適当な後継者が見つからない」など後継者難を理由とする回答が28.6%を占めており、後継者不足も深刻な状況となっている。

3 企業の休廃業・解散の状況

 実際に後継者不足や事業の将来性を考慮し、経営が行き詰まる前に自主的に廃業を選択するケースも増加傾向にある。民間調査機関の東京商工リサーチによると、平成28年に休廃業や自主的に解散した企業は、前年比8.2%増の2万9,583件に達し、25年に記録した2万9,047件を上回り、過去最多となった。
 一方、倒産した企業はここ数年右肩下がりで減少し、昨年の倒産件数は8,446件とバブル期の2年以来の低水準となった。休廃業・解散件数は倒産件数の3倍以上の水準に達しており、このままでは企業が保有している技術やノウハウが喪失してしまい、またそこで働く従業員も雇用の場を失うことになる。望まぬ廃業を防ぐためにも、円滑な事業承継が喫緊の課題となっている。

4 事業引継ぎ支援事業

 こうした状況の中、国は平成23年度から後継者不在に悩む経営者に対して「第三者への承継(引継ぎ)」を支援するため、全国に事業引継ぎ支援センターを設置し、支援を行っている。同センターでは、事業引継ぎに関する様々な情報提供・助言等を行っているほか、後継者不在の事業者と後継候補者のマッチング業務等も行っている。事業開始以降、相談件数、成約件数ともに年々増加しており、23年10月~29年3月までの累計で相談件数は16,988件、成約件数は791件に上る。
 秋田県の事業引継ぎ支援センターは、秋田商工会議所が国の委託を受けて26年4月に設置した。全国と同様に本県の相談件数も年々増加しており、東京や大阪など大都市に次ぐ規模となっている。相談件数は29年10月25日までの累計で1,015件となり、開設3年半で千件を超えた。内訳は事業譲渡257件、事業譲受240件、親族内承継331件、従業員承継100件、その他相談87件となっている。また、これまでの成約件数は34件で、今年度は上半期だけで12件に上る。内訳は卸小売業、サービス業がそれぞれ10件、製造業7件、建設業4件、飲食業2件、社会福祉業1件となっている。
 同センターでは、県内5か所に相談員を配置し、相談者の掘り起こしに努めているほか、商工団体や金融機関、創業支援機関等などによる紹介も増えてきている。今後もさらなる相談者の掘り起こしと、事業承継に関する関係機関の連携体制の強化・拡充を図る方針である。

5 県内企業の事業承継に関するアンケート調査

 当研究所では、県内の事業承継に関する動向を調査するため、次の調査要領にて県内の企業を対象にアンケートを実施した。

(1)経営者の年齢
 はじめに県内企業の経営者に現在の年齢を尋ねたところ、「60歳代」と回答した割合が39.3%と最も多く、次いで「50歳代」(24.9%)、「70歳以上」(17.3%)、「40歳代」(16.2%)、「40歳未満」(2.3%)の順となっている。また、「60歳代」と「70歳以上」を合わせた『60歳以上』の割合は56.6%と、全体の5割超を占めており、本県の経営者の年齢も高齢化している状況が窺える。

(2)今後の事業運営方針
 次に、今後の事業運営方針について尋ねたところ、「拡大したい」(52.0%)と「現状を維持したい」(41.6%)が合わせて93.6%と大勢を占めた。一方、「縮小したい」は4社(2.3%)、「わからない」は3社(1.7%)の回答にとどまり、ほとんどの経営者は、自身が経営を担う間、今後も事業を維持・拡大させたいと考えている。なお、「廃業したい」とする回答はなかった。

(3)経営者を引退した後の事業運営方針
 経営者は将来的な事業運営方針について、どのように考えているのだろうか。自身が引退した後の事業運営方針について尋ねたところ、9割近くが「事業を継続させたい」(87.9%)と回答した。一方、「まだ決めていない」(8.7%)との回答も1割弱あるが、自身の引退とともに廃業する「事業をやめたい」は3社(1.7%)の回答にとどまり、大半は後継者に現在の事業を続けてほしいと考えている。

(4)引退後も事業を継続させたい理由
 経営者自身が引退した後も事業を継続させたい理由としては、「従業員の生活を守るため」(96.1%)が最も多く、全体の9割超を占めている。以下、「地域社会への貢献を果たすため」(75.7%)、「取引先への責任を果たすため」(67.8%)、「技術・ノウハウを守るため」(37.5%)などが続いた。

(5)引退後の事業継続を決めていない理由
 一方、引退した後の事業運営方針について、「まだ決めていない」と回答した経営者にその理由を尋ねたところ、「事業の先行きが不透明なため」(53.3%)が最も多く、「まだ決める必要がないため」(33.3%)、「後継者を確保できるかわからないため」(26.7%)が続いた。

(6)後継者の決定状況
 現時点における後継者の決定状況については、「決まっている」(26.3%)と「予定者がいる」(25.1%)が合わせて51.5%となったが、「決まっていない」とする回答も48.5%となり、決定状況はほぼ同数となっている。
 年齢別にみると、「40歳未満」、「40歳代」、「50歳代」では、「決まっていない」とする回答の割合が最も多い。一方、「60歳代」、「70歳以上」では、「決まっている」、「予定者がいる」とする回答の割合が高くなっているものの、「60歳代」では3割、「70歳以上」では4割の経営者がまだ「決まっていない」状況にある。

(7)事業承継の予定時期
 後継者が「決まっている」または「予定者がいる」と回答した経営者に事業承継の予定時期について尋ねたところ、「今後3~5年」(26.4%)が最多となり、次いで「今後5年以上先」(25.3%)、「未定」(23.0%)、「今後1~3年」(20.7%)、「今後1年以内」(4.6%)の順となっている。
 年齢別にみると、「40歳代」では「今後5年以上先」(42.9%)と「未定」(42.9%)が最も多く、「50歳代」では「今後5年以上先」が5割弱を占めている。「60歳代」では「今後3~5年」(39.1%)が最も多く、「70歳以上」になると「今後1~3年」が5割超を占めている。

(8)事業承継先
 また、事業承継に際しどのような人を後継者にしたいと考えているか尋ねたところ、「子供」(61.6%)が最も多く、「子供以外の親族」(8.1%)と合わせると、経営者の親族がほぼ7割を占めている。「親族以外の役員・従業員」(27.9%)は3割弱となり、「社外の第三者」とする回答はなかった。

(9)後継者が決まっていない理由
 前項(6)の後継者の決定状況において、後継者が「決まっていない」と回答した経営者にその理由を尋ねたところ、「まだ決める必要がない」(39.0%)が最多となった。一方、「適当な後継者が見つからない」(20.7%)、「現在候補者を探している」(12.2%)など後継者不足を理由とする回答が合わせて32.9%となったほか、「後継者はいるが、本人がまだ若い」(9.8%)、「複数の候補者がいて、絞り込めていない」(7.3%)、「候補者はいるが、本人の承諾を得ていない」(4.9%)などの回答が合わせて22.0%となるなど、後継者が決まっていない経営者の5割超が後継者難に直面している。

(10)後継者を決定する際に重視すること
 後継者を決定する際に重視することとしては、「決断力・実行力が高い」(75.9%)が最多となった。以下、「リーダーシップに優れている」(71.2%)、「従業員からの人望がある」(35.9%)、「コミュニケーション能力が高い」(27.1%)などが続いた。後継者に求められる資質には人間性・社会性、知識・教養、コミュニケーション能力など多岐に渡るが、総合的な人間力が備わった人物が、後継者の理想像となっている。

(11)事業承継を進めるうえでの課題
 事業承継を進めるうえでの課題について尋ねたところ、後継者が「決まっている」、「予定者がいる」と回答した経営者は、「後継者を支える人材の育成」(86.4%)が最も多く、後継者が「決まっていない」と回答した経営者は「後継者の育成」(77.8%)が最も多かった。
また、「取引先との関係維持」、「相続税・贈与税への対応」など具体的な対策への回答は、後継者が「決まっている」、「予定者がいる」と回答した経営者の方が、「決まっていない」と回答した経営者に比べ多かった。

(12)事業承継の準備状況
 現時点における事業承継の準備状況については、「準備している」(36.6%)と「準備していない」(36.6%)が同数となり、次いで「現時点では準備の必要がない」(23.3%)の順となった。
 年齢別にみると、「40歳未満」、「40歳代」では「現時点では準備の必要がない」とする回答の割合が最も多く、「50歳代」では、「準備していない」の割合が最も多い。「60歳代」、「70歳以上」になると、「準備している」とする回答の割合が高くなり、「70歳以上」では5割超が「準備している」状況にある。

(13)事業承継の準備をしている内容
 事業承継の準備をしている経営者は、具体的にどのような準備をしているのか。事業承継の「準備している」と回答した経営者にその内容について尋ねたところ、「後継者を支える人材の育成」(63.5%)が最も多く、次いで「後継者の育成」(60.3%)となった。この2つの項目については、前項(11)の事業承継を進めるうえでの課題でも上位に挙げられており、経営者は『人材育成』を重視していることが窺える。以下、「相続税・贈与税への対応検討」(44.4%)、「取引先との関係維持」(42.9%)、「自社株式・事業用不動産の移転方法の検討」(39.7%)などが続いた。

(14)M&Aなど企業の売却・譲渡の検討
 事業承継を検討する中で、親族に後継者が見つからない場合や、従業員に会社を継がせることが困難な場合、M&Aなど企業の売却・譲渡は有力な選択肢となり得る。近年、こうした後継者難を背景に、中小企業を対象にしたM&Aが増えているが、県内企業の経営者はどのように考えているのだろうか。M&Aなど企業の売却・譲渡について検討したことがあるか尋ねたところ、「検討したことはない」(88.9%)が9割弱と圧倒的に多く、「検討したことがある」(11.1%)は少数にとどまった。
 後継者の決定状況別にみると、後継者が「決まっていない」と回答した経営者の方が、「決まっている」、「予定者がいる」と回答した経営者に比べ、「検討したことがある」割合がやや多い。

(15)企業の売却・譲渡を検討するに当たって重視すること
 M&Aなど企業の売却・譲渡を「検討したことがある」と回答した経営者に検討するに当たって重視することを尋ねたところ、「従業員の雇用維持」(77.8%)が8割弱と最多となった。以下、「企業の更なる発展」(66.7%)、「自社技術の活用・発展」(44.4%)、「会社債務の整理」(27.8%)などが続いた。

6 アンケート調査結果のまとめ

 以上、県内企業の事業承継の動向について、アンケート調査により現状を明らかにしてきた。多くの経営者は自身の引退後も事業を継続させたいと考えているものの、後継者が決まっていない経営者は全体の約半数に上った。さらに、このうち半数以上が適当な後継者が見当たらないなど後継者の確保が困難な状況となっている。
 また、事業承継をするうえでの課題については、経営者は後継者や後継者を支える人材の育成を重視している。事業承継は、誰かに事業を承継することが目的ではなく、技術やノウハウを次世代に受け継ぎ、承継後も企業が維持・発展していくことが最も重要である。円滑な事業承継を行うためにも、経営者は人材育成を最優先課題と考えているものと思われる。
 一方、M&Aなど企業の売却・譲渡を検討したことのある経営者は少数にとどまった。後継者が見当たらないなど後継者の確保に苦慮している経営者は、社外の第三者への承継も選択肢として考慮すべきであろう。

7 円滑な事業承継を行うために

 円滑な事業承継を行うためには、どのような準備を心掛けたらよいのだろうか。中小企業庁の「事業承継ガイドライン」には、事業承継のステップを①事業承継に向けた準備の必要性の認識、②経営状況・経営課題等の把握(見える化)、③事業承継に向けた経営改善(磨き上げ)、④事業承継計画策定、⑤事業承継の実行、という5段階に分け、10年後を見据えて進めていくことが望ましいとしている。事業承継は、後継者の育成、事業・資産の引継ぎなどに長い時間を要するため、計画的な取り組みが必要となる。準備期間には最低でも5~10年程度は必要となるため、経営者の年齢が60歳に達した頃には準備に着手する必要がある。
 また、事業承継をサポートしている支援機関を活用することも有効である。県内には前述した秋田県事業引継ぎ支援センターのほか、秋田県商工会連合会、金融機関などでも相談に応じている。より専門的な内容については、税理士や弁護士に相談することも必要であろう。
 平成30年度税制改正で中小企業の事業承継を促す税優遇策が拡充される見通しにあるが、こうした国の制度もさらに充実させ、円滑な事業承継が行われることを期待したい。
(山崎 要)
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